【学習センター機関誌から】社会に開かれた大学——放送大学との出会い

仲本 康一郎

放送大学山梨学習センター客員教授
山梨大学大学教育・DX推進センター教授

1994年春、私は大学院入学とともに東京ではじめての一人暮らしをすることになった。トイレは共同、風呂は銭湯と、昭和の面影を残す安アパートでの生活が始まった。四畳半一間の下宿は豊かとはいえなかったが、「方丈庵」を思わせる質素な生活に私は満足していた。現代的にいえば、ミニマル・ライフを満喫していたわけである。

放送大学との出会いは、そんな東京での暮らしが落ち着いてきたある日のことだった。その日、何気なくスイッチを入れたラジオから流れてきたのは、放送大学のラジオ番組「生活学入門」である。講師は、大久保孝治先生(現在、早稲田大学教授)。やさしく丁寧な語り口に思わず引き込まれた。

その日の講義題目は、「寝る」だったように記憶している。

日本人の毎日の睡眠時間はどれくらいかということにはじまり、私たちはどこで寝るのか、ふだんどんな姿勢で寝ているか、電車で居眠りをするかなど、身近な話題をもとに、社会学の手法で日常生活を次々に分析していくその語りに感心するとともに、新しい未知の世界との出会いを感じた。

なかでも私は、比較文化論を背景とした考察に興味を覚えた。日本の家庭では、子どもは川の字になって親と同じ部屋で寝るが、西洋では赤ん坊を生後すぐ別室に寝かせる。こうした行動様式の違いは何を反映しているのか。日本の家庭は子どもを中心とした核家族を基本としているが、西洋の家庭はあくまで夫婦を単位としており、子どもは独立した個人とみなされる。

こんな小さな生活様式の違いから、西洋と日本の家族観がみえてくる。面白い!さっそく印刷教材を購入して目次をめくってみると、「食べる」「着る」「住まう」という衣食住をテーマにしたものから、「働く」「遊ぶ」「寝る」という生活リズムに関するテーマ、そしてすべての人間が直面する「老いる」「死ぬ」という人生の課題へとつづいていく。

それまでの大学や大学院の授業では出会えなかった分野を、丁寧にかつコンパクトに解説してくれる。専門の論文に注釈を施していくだけの授業に少々嫌気がさしていた私は、放送大学と出会うことで、領域にとらわれない幅広い視野を得ることができた。放送大学のおかげで、「越境する自由」を得たといっても過言ではない。

オープン・ユニバーシティ――社会に開かれたこの大学が、これからもさまざまな出会いの場を提供してくれることを期待しています。


山梨学習センター機関誌「おいでなって」第93号(2024年7月発行)より掲載

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