【学習センター機関誌から】時間のこと

向井 理恵
放送大学富山学習センター 客員准教授
(専門分野:英語・認知言語学)

 

 

冬の夜空は星がきれいである。iPodを片手に繰り出す散歩の時間は、雑多な日常から自分を切り離してくれる。
大方の色が取り払われた世界の中では、頬や耳に感じる清冽な空気と、脚の筋肉の心地よい伸縮、そして星空だけがある。外界とそれを感じる自分だけが存在し、「身一つ」という感じがする。

iPodから流れる音楽で、いろいろな記憶が浮かんでは消え、時を経て変わったものと変わらないものを思う。この夜の散歩の時間は、ちょっといい。
「そうだ、時間のことを書こう」。このとき、本誌の巻頭言の題材を思いついた。

今、手元にある「時間」の絵本を紐解いてみる。絵本は、いろいろな「時間」を示しながら、「時間は1つではない」というメッセージを伝えている。
自分のからだが刻む「心臓の鼓動の時間」。この一瞬のあいだに、地球のどこかで人が1人亡くなり、赤ちゃんが2人生まれているという。
生まれてから死ぬまでの「人生の時間」。人はみな、この世に生まれて、成長して、世界を知って、最後には死ぬ。

時間に対する感覚も子どもと大人では異なり、子どもは時間を長く感じ、大人は短く感じる。
命の時間は、生物によっても異なる。数時間の命しかないカゲロウもいれば、何千年も生きる木まである。
「代々つづく一族の時間」は、誰もが過去に生きた誰かの子孫であることを教えてくれる。

人類自体が30万年前にアフリカに現れたホモ・サピエンスを同じ祖先にもつ一つの大きな家族である。約138億年前の宇宙の誕生、約46億年前の地球の誕生から現在に連なる「歴史の時間」。
宇宙の始まりが1月1日の午前0時で、今が12月31日の午後12時と仮定すると、地球は9月に誕生している。
地球の始まりが1月1日の午前0時で、今が12月31日の午後12時とすると、私達の祖先は年越しの23分前にあたる12月31日23時37分に生まれている。

「いま何時ですか?」この何気ない問いに答えることができるのも、何世紀にもわたる先人たちの発明のおかげである。
「日時計」「水時計」「砂時計」のほか、一日は24時間ということを普及させた「機械式時計」、20世紀末に世界中に広まった「クオーツ時計」、3億年に1秒しかずれない「原子時計」。
中でも一番大きな時計は昼と夜のリズムをつくっている「地球」なのだと絵本は教えてくれる。2023年という新たな年も「グレゴリオ暦」という、地球が太陽の周りをまわる日数をもとにした太陽暦の時間である。

人が実際に感じる時間は、時計のそれと同じではない。幸せなとき、夢中になっているとき、驚いたとき、楽しんでいるとき、そして怖いときや緊張しているときも、時間は早く過ぎる。
一方、退屈だったり、くよくよしていたり、悲しんでいたり、苦しんでいるときは、時間がなかなか過ぎないように感じる。詰まるところ、誰もが自分だけの時間で生きている。

2023年も、いろんな時間を生きていくのだろう。
「宇宙に生まれた奇跡の星の毎日」を「ただ生きてないで 死んでないで 今を渡っていって」。そう歌うある曲の歌詞が、私の散歩の足取りを力強くする。


 富山学習センター機関誌「たんぽぽ」第121号(令和5年1月)より

公開日 2023-03-17  最終更新日 2023-03-17

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