【学習センター機関誌から】ウィズコロナ時代の「大人の食育」② ~2021年沖縄の食文化の危機!? 衛生管理の国際基準!により あちこーこー島豆腐が消える!~

沖縄学習センター客員教員 森山克子
(専門分野:給食管理、調理学、食育)

島豆腐は、沖縄の食文化の重鎮です。
民族学者:柳田邦男は、沖縄の郷土料理・島豆腐を「野武士のごとき剛健なる豆腐である」と評したそうです。 
昔ながらの製法で作られた島豆腐は、格別な美味しさです。島豆腐は、「生絞り法」といって、賞味期限は短くなるものの、大豆の風味が強く残って、とても濃厚な味わいになります。

本土でよく見る一般的な豆腐は、大豆を煮詰めて絞る「煮絞り法」で、島豆腐とは製造法が異なります。島豆腐は、1丁の大きさが本土の豆腐の約3倍。1丁が約1㎏と大きく、通常一丁もしくは半丁単位でビニール袋に入れて売られています。水分が少なくて固い。固いがゆえにチャンプルー等多様な料理に利用できます。栄養濃縮型。沖縄と本土の豆腐の成分比較より水分が5%ほど少なく、エネルギー1.5倍、タンパク質1.4倍、脂質1.7倍であり、ナトリウム、カルシウム、リン、鉄、ビタミンB1・B2も多く栄養が濃縮されています。

栄養学的にふりかえると沖縄県民の長寿要因の一つが、島豆腐からの日常的なたんぱく質摂取でした。その沖縄の豆腐、島豆腐は熱々(あちこーこー)で販売されるのが一般的。そのため、熱を閉じ込めるわけに行かず、ビニール袋を閉じずに開けたまま販売され、これが沖縄スタイルの豆腐販売方法で、当たり前の風景。沖縄のスーパーでは、島豆腐の納品時間が表示されているのです。

うちなんちゅは、できたての「あちこーこー」にこだわるので、あちこーこータイムが売れ時です。業者からの配達時間に合わせて購入しようと売り場でスタンバイしている消費者の姿がよくみられます。
そんな沖縄県民のソウルフードでもある、あちこーこー豆腐が消えることになりそうです。


今年、2021年6月1日から、農水省は、食品衛生管理の国際基準「HACCP(ハサップ)」に沿った衛生管理の義務化を決めています。HACCPの義務化により、沖縄独自の食文化である「あちこーこー島豆腐」の衛生管理指針が定められました。その手引書では、温度が55度を下回った場合は3時間以内に消費するか、冷蔵庫で保存することが柱となります。島豆腐が、本土並みに冷やしてパック詰めで売るのか、それとも沖縄食文化を残す道が開かれるのか!熱々か冷え冷えか気になるところです。
国は、島豆腐を55度保つことも業者に求めるようになりますが、豆腐加工団体の方からは、島豆腐が固くなりその味わいも変わり、消費者離れとなるのではと憂慮している声もあります。また今回、業者側は、55度を保つ機器購入費用等その対応が必要となるでしょう。

一方、衛生管理の面から考えると。県食品衛生協会は、豆腐は55度を下回ると、腐敗の原因となるセレウス菌が繁殖。手引書の作成を手掛ける4時間を超えると食中毒を起こす危険性が高く、3時間以内でなければ安全性を担保できないと説明していることも納得。

しかし、今年、6月の義務化以降は、順守してない業者は、行政指導の対象となるかもしれません。従来の方法で、営業すると食中毒のリスクを放置したとなり行政処分を受けることになる可能性もあります。新たな衛生管理基準により家族で営業している小さな豆腐屋さんはその厳しい基準が守るための新たな投資が必要となり、高齢者で、後継者がいない場合、廃業せざると得ない判断する地方の零細業者が続出するでしょう。そして前述したように残念ながら、本土風の水にさらした島豆腐が主流となるかもしれません。


過去の歴史をみると、1972年の日本復帰の際にも、国は食品衛生法の下、島豆腐を冷やして販売することを義務付けましたが、豆腐加工組合が陳情して、あちこーこーで食べる沖縄の食文化を維持できるよう、食品衛生法の特例として認められた事実があります。今回、決定に従い、冷やしたパックで売れば衛生上は、問題ないですが、これまでの味わい深い食文化が消えてしまう結果になってしまう危機感を感じています。食文化と衛生管理の世界基準‘(HACCP)との折り合いは、悩ましいことです。
おわりに、長寿県沖縄のご先祖さまは、島豆腐から主にプロティンを摂取していました。

ギリシャ語でプロティンとは「最も大切なもの」を意味しています。プロティンは、肌、脳、血液、酵素等私達の体のあらゆるものを作っています。
これまでの食文化を考えると、うちなんちゅにとって「この最も大切なもの」の1つが島豆腐でした。あちこーこー豆腐の食文化を大切にしたいものです。
今年、6月からHACCPの義務化が始まります。そこで、5月までに、たくさんの方々にあちこーこー豆腐を食べて頂き、面々とご先祖さまが命を繋いできた栄養と美味しさを味わって頂き、次の世代にこんなソールフードがあったと体験で伝えたいものです。

2021年新春は、あちこーこー豆腐のもつ野武士のような風情と温かさの溢れるうちなんちゅの肝心(チムググル)の味をぜひ、ご家族で堪能して下さると幸いです。
そこで、あちこーこー豆腐を残す手立てはないものでしょうか?沖縄の食文化を残すための皆様のお考えをぜひ社会にシェアしてくださいませ~。


沖縄学習センター機関誌「キャンパスニライ」97号より

公開日 2021-06-23  最終更新日 2022-11-08

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