【学習センター機関誌から】新型コロナウイルス感染症と疫学

岩手学習センター客員教員 小野田 敏行
(専門分野:公衆衛生学、成人保健)

 

 

 

 

新型コロナウイルス感染症。2020年1月に原因不明の肺炎として初めて報道されて以降、明けても暮れてもそれに振り回される日常となってしまいました。

当初は長くてもその年の秋までには落ち着くのではないか、あるいは落ち着かず繰り返し流行が起きるとしても徐々にそのピークは下がってくるのではないかと考えていましたが、翌年、つまり今年になってもデルタ株の出現によってむしろ大きなピークがやってきています。

これだけ対策してきたのだから今後はもういいでしょうなどと思わず、できることを続けていきましょう。


さて、今回のような原因不明の疾患が出現したときは疫学の出番です。疫学とは漢字の通り、疫病、もう少し広く言って流行り病の学問です。

近代的な疫学はイギリスの医師、ジョン・スノー(1813-1858)によって始められました。当時は産業革命により世界での往来が盛んになるとともに都市部に人口が集中したことから、しばしばコレラの大流行がみられていました。

スノーはロンドンでの1854年のコレラ流行時に、死亡患者の居住地を地図上にプロット(記述)、プロットが特定の井戸の近くに集中していることに気づき(分析)、その井戸の使用を止めさせました(介入)。その結果、患者の発生が減ったので特定の井戸が原因として確からしいとなったのですが、特筆すべきなのは、当時まだコレラ菌は発見されておらず(コッホによる発見は1883年)、コレラ以外でも経口感染という考え方はされていなかった時代の話だということです。


感染症は病原体がなければ発生しません。その意味で、前述のようなエピソードでは原因菌の判明によって、どんな方でも腑に落ちることとなりますが、いわゆる生活習慣病は単一の原因では説明できないため、なかなか腑に落ちないのです。特にタバコです。

タバコと肺がんの関係は現代の疫学によって強い結びつきが証明されてきましたが、「喫煙しなくても肺がんになる人がいる」「喫煙していても元気で長生きの人がいる」などと反論されます。このような反論に対し、丁寧に学問として説明をしていくことで現代の疫学は進んできました。


昔も今も、疫学で得られた結果を私たちがどのように納得して受け入れ、活かしていくかが課題です。ネットの掲示板やSNSでは、よりセンセーショナルな情報が広がりやすい特徴があります。根拠がない情報でも不安を煽るような情報は受け入れられやすく、有名な人が追従してしまうと私たちはさらに確からしいと感じてしまいがちなので注意が必要です。

疫学研究の結果は学術誌などに公表される根拠のある情報です。今であれば、新型コロナへの予防対策やワクチンの有効性、また、デメリットについて、が旬の情報です。

根拠のある情報をしっかりとみて、メリットとデメリットのバランスも考え、各自納得して行動を選択していくことが大事と考えます。


 

岩手学習センター機関誌「イーハトーブ」178号より

公開日 2021-11-19  最終更新日 2022-11-08

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