【学習センター機関誌から】寄席の縁起担ぎと粋な客

放送大学 東京文京学習センター 非常勤講師

春風亭昇吉

~春風亭昇吉先生 真打昇進 おめでとうございます!~

春風亭昇吉でございます。
私は、4年前から放送大学 東京文京学習センターで『人生が愉しくなる落語学』という面接授業を受け持っております。

まず、落語の実演、そのあとホワイトボードやプリントを使った文化背景や語彙の確認、そして教科書を使った落語の基礎知識の学習、という三部構成です。
古典落語の楽しさ、そして、周辺知識の生涯学習を通じて人生を愉しくするというコンセプトが受け入れられ、開講以来、毎回定員オーバーで抽選がおこなわれる程、支持を頂いております。

去年、2021年5月に私は真打に昇進しました。昇進記念で東大安田講堂にて昇進披露公演も行いました。
落語家には、前座・二つ目・真打という3階級があります。しかし、真打はゴールではなく、スタートラインです。これからもっと頑張っていきたいと思っています。 応援宜しくお願い致します。

さて、お正月の寄席では、縁起を担いだネタが演じられます。 「初天神」「寿限無」「かつぎや」「七福神」「一目上がり」などです。 縁起のいい笑いを観賞して、心身とも健やかになろうと、たくさんのお客様がおいでになります。 笑いは、免疫機能向上や認知症予防に効果があるというのは、医学的にも証明されています。

お正月以外にも、寄席の楽屋では色んな縁起担ぎがあります。 舞台にあがる前に掌に、「人」という字を三回書いて、それを飲んでから高座に上がる師匠がいます。 「人を飲む」ということでしょう。 
また、楽屋の階段の途中で止まっていけないというルールもあります。 お客様の「出足がとまらない」ように、ということでしょう。

座布団の置き方もそうです。 座布団は、長方形の布に綿を詰めて、半分に折って、3辺を縫い合わせて作ります。4辺のうち1辺だけ縫い目がない辺があり、それを座布団の「ワ」といいます。 ワがお客様の方に向くように、高座に座布団を設置します。 お客様と縁の「切れ目がない」ように、という洒落です。
まだまだ、寄席の縁起担ぎはあるのですが、詳しくは私の授業を受けにきてください。

落語家は、お正月には常設の寄席以外に、新年会などのお座敷に呼んで頂くこともあります。
一席落語を聴いて頂いて、一緒に食事をするんですが、ありがたいですね、そういうお仕事を頂けるのは。
中には、粋なお客様もいらっしゃいまして、帰り際に「昇吉師匠、今日は忙しいところありがとう。こころばかりなんだけど、これでうまいもんでも食べて」ありがたいですねえ!!
ギャラとは別に、心付けを下さる。こういう粋なお客様は大切にしたいです。
うちに帰って、どこかに飲みに行こうかなぁと思って、頂いたばかり心付けの封筒を開けてみて驚きました。なんと割り箸が入ってるんです。
ちょっと考えて分かりました。「これでうまいもんでも食べて」ってんです。
一枚上手の、粋なお客様でした(笑)   昇吉拝

経歴
1979年 岡山県生まれ
2006年 全日本学生落語選手権・策伝大賞
2007年 東京大学総長大賞受賞
    春風亭昇太に入門
2011年 二つ目昇進 気象予報士登録
2012年 NHK新人落語大賞 本選出場「たがや」
2013年 NHK新人落語大賞 本選出場「たけのこ」
2014年 NHK新人落語大賞 本選出場「紙屑屋」
2015年 第一回若手演芸選手権優勝「安いお店」
2016年 第27回北とぴあ若手落語家競演会
    北とぴあ大賞「安いお店」


東京文京学習センター機関誌「文京(ふみのみやこ)通信」13号 2022年1月掲載記事より

公開日 2022-03-18  最終更新日 2022-11-01

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