【学習センター機関誌から】人間拡張の原理

東京渋谷学習センター客員教授/中央大学商学部教授
三浦俊彦
専門:マーケティング、消費者行動

 

 20世紀メディア論の大家マクルーハンによると、技術やメディアは、人間の身体の拡張である。手の代わりに石斧、足の代わりに車輪(自転車・自動車)、耳の代わりにラジオ、目の代わりにテレビが生まれることによって、人間は自身の身体の限界を超えて、その能力を拡張してきた。
 インターネットの出現は、目と耳をさらに拡張した。受動的なテレビなどのメディアと異なり、能動的な性格から、自宅のPCやスマホを操作するだけで、好きな時に身体の能力を拡張し、世界の人々とつながり、世界のニュースがわかり、世界の商品が買えるようになり、人間能力の時間的・空間的拡張を行った。
 時間面では、テレビは放送時間に従わねばならず、ショッピングも店舗の営業時間に拘束されていたのに対し、インターネットでは、好きな時に好きなサイトを閲覧でき、深夜・早朝好きな時に注文できる。放送時間・営業時間に制約されていた消費者行動が、ネットによって24時間可能となり、能力の時間的拡張を行った。空間面では、ネット初期には、身体能力を拡張できる地点はPCのある自宅や職場であったが、携帯・スマホからのネット接続によって、身体拡張の地点を広げ、能力の空間的拡張も行った。
 さらに、インターネットは口の能力も拡張した。ネット社会の最大の特徴の一つは、消費者自身がメディアを持った点である。マスメディアと言われるように、従来メディアは大企業のものであったが、インターネットによって、消費者自身もメディアを持てるようになり、ブログサイトに始まり、近年のユーチューバーやインスタグラマーなどのように、消費者も企業と同等に発言する口を持った。マクルーハンは、声帯(口)の拡張としてメガホンなどをあげていたが、YouTubeなどのネットメディアの獲得は、単なる音量の拡張を超え、時間的・空間的に口の拡張を行った。いまや消費者は、好きな時に、好きなことを、好きな場所から、世界に発信する。
 そしてChatGPTなどの生成AIの登場である。企業では資料の作成や整理、情報収集(質問への回答)などに使われ出しているし、高校などではGPTによる「壁打ち」と言われるように、学生が課題を提出し、それにGPTがコメントをつけ、それを学生がまた修正し・・・、というまさにテニスの壁打ちの練習を彷彿とさせる。ChatGPTという新たな技術が秘書や家庭教師のような役割を果たしているのだが、「脳」の拡張ということもできる。
 画像系の生成AIでは、菓子メーカーのブランド担当者が新製品のキャラクターをネコにしようとして、どんなタイプのネコにするか悩んでいるとき、生成AIに頼めば、かわいいタイプ、強そうなタイプ等々、いくらでも生成してくれる。マンガ家をめざす若者がキャラクター・デザインに悩んでいるなら、候補キャラクターをいくらでも出してその若者の感性を刺激する。
 生成AIは、人間の左脳(論理的脳)も右脳(感性的脳)も拡張してくれそうである(文章系も画像系もLINEにいるので、友だち追加すれば簡単に使える)。メタバースを含め、ネット社会には無限の可能性がある。


東京渋谷学習センター機関誌「渋谷でマナブ」No.18(発行2023年10月号)より転載

公開日 2024-01-23  最終更新日 2024-01-23

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