【教員コラム】現実的で,かつ,厳密なIBTの実施に向けて

放送大学 情報コース 中谷 多哉子 教授

私は,コンピュータのソフトウェア開発における要求工学を専門領域として研究を行っています。ソフトウェア開発者の仕事は,ソフトウェアを開発することではなく,要求者が求める社会というシステムを作ることです。

IBT( Internet Based Testing )は学生,教員,放送大学のスタッフ・関係者が期待したシステムになるでしょうか。2022年7月に実施したIBTの報告と今後の課題について考えてみました。

2020年のコロナ禍のもと,各学習センターで単位認定試験を行えない状況となり,やむなく学生さんの自宅での単位認定試験が開始されました。学生さん達が自宅で試験を受けるという方式は想像以上に好評で,もはや後戻りはできない状況となりました。

それから2年間の時間をかけて,少しずつIBTに向けた受験方法の変更が行われましたが,実際にIBTを実施するためには,様々な課題がありました。

  • IBTを実施するためには,学生さん達の自宅にPCとインターネット環境が必要です。事前にアンケート調査を行った結果,8割以上の学生さん達がすでにweb環境を使っていることが明らかとなりました。その割合は年々増加していることも確認しました。
  • IBTを前提としても,学習センターでの受験を想定してPCの手配を行うと共に,Google Formsによる解答の受付を用意するなど,多方面の対応をしました。
  • IBTにおいて,学生さんからPCやネットワークに障害が発生したとの連絡があったときは,状況を確認した後,再試験を認めることにしました。
  • IBTシステムが,延べ20万科目・人のアクセスに耐えられることを確認するため,負荷テストを行い,webサーバの増設と仮想待合室の導入を行いました。

これらの準備を行った後,11日間のIBTが実施されましたが,試験期間中に学習センターで受験された科目数は,延べ1664科目でしたが,延べ183,043科目でIBTを実施することができました。IBTに協力して下さった学生さんの人数は約5万人です。

心配していたIBTシステムへの想定外のアクセス集中が生じなかったのは,放送大学のスタッフの貢献と,IBTの円滑な実施に協力してくれた学生さん達のお陰です。

これからも,IBTが放送大学,そして学生の皆さんが求める大学システムとなるように,成長させていく必要があります。

最も大きい課題は,不正行為の監視を強化することです。これは,放送大学に限らず,日本ではIPA(情報処理推進機構)のIBT試行実験や,世界的なIBTとして実施されているTOEICの事例などでも検討が進められています。

暫くは,放送大学のスタッフと学生の皆さんの協力によってIBTシステムを育てて行かねばなりません。今後も,力を合わせて前進していきます。

(この記事は、2022年12月21日に執筆されました。)



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公開日 2023-01-20  最終更新日 2023-10-20

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