【新任所長挨拶】 大阪学習センター所長就任にあたって (大阪学習センター所長・金水敏)

大阪学習センター所長 金水 敏 

この4月1日より、西田正吾先生より大阪学習センター所長を引き継ぐこととなりました、金水 敏(きんすい さとし)と申します。

私の専門は日本語学になります。学位取得論文は『日本語存在表現の歴史』というタイトルで、日本語で人や物の存在を表す「いる」「おる」「ある」という動詞の歴史的変化と方言における分布について考察したものです。この書籍は幸い、2006年の新村出賞の受賞対象となりました。この研究は修士論文から引き続いて進めてきたものですが、その過程で気付いたことがきっかけとなり、「役割語」という研究テーマが開けました。

例えば、マンガやアニメなどに老人が出てくると、「そうなんじゃ、わしが知っておるんじゃ」というような話し方をし、お嬢様が出てくると「そうですわ、わたくしが存じておりますわ」というような話し方をすることがありますが、現実にはなかなかそのような話し方をする老人やお嬢様に出会うことは難しいと思います。このように、フィクションの世界ではよくお目にかかれるが、必ずしも現実の世界に存在するとは限らない、特定の人物像と結び付いた話し方のことを「役割語」と命名し、その存在理由や、歴史について研究してきました。その成果は2003年に『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』という書籍として刊行され、英語版、韓国語版も出版されました。さらに関連書籍が今までに5冊ほど刊行され、現在も出版を計画中です。役割語の観点から、村上春樹の小説やジブリ・アニメを分析した業績もあります。

実は、この役割語をテーマとして、放送大学学習センターで対面授業をやらせていただいて来ました。途中、新型コロナ感染防止のための中止もありましたが、都合8年間続いています。また、文法の話題で放送授業に出演したこともあります。それらの経験もあって、今回の所長就任も不安なく承けさせていただきました。また、役割語を糸口として、文系・理系のさまざまな領域の研究者のみならず、小説家、劇作家、古典芸能関係者、マンガ家、放送関係者等、多彩な方々との知己を得ました。このようなネットワークは、放送大学でのお仕事にも何らかの形で役立つのではないかと思っております。精一杯勤めて参りたいと思っておりますので、どうぞお引き立てのほどよろしくお願いいたします。

[プロフィール]
1956年4月29日大阪市天王寺区に生まれる。小学校から高校までは大阪市北区で暮らす。大阪府立北野高等学校から東京大学文科Ⅲ類・文学部を経て、大学院へ入学。その後東京大学文学部助手、神戸大学教養部、大阪女子大学文芸学部、神戸大学文学部等を経て、2022年3月まで大阪大学大学院文学研究科教授。2016〜2017年には文学研究科長・文学部長を勤める。2020年12月に日本学士院会員、大阪大学栄誉教授。主な著書に『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(岩波書店)、『コレモ日本語アルカ? 異人のことばが生まれるとき』(岩波書店)、『日本語存在表現の歴史』(ひつじ書房)、『〈役割語〉小辞典』(編著、研究社)等。趣味はフルート演奏、文楽、落語、宝塚歌劇等の鑑賞など。


大阪学習センター機関誌「みおつくし」第85号,2022年4月号より

公開日 2022-06-17  最終更新日 2022-11-01

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