【学習センター機関誌から】大河ドラマはいかが?

岡山学習センター所長
田仲 洋己

専門:日本文学

 

 私はテレビをそれほど見る口ではないのですが、たまに思い立って連続ドラマを見ることがあります。NHKのいわゆる大河ドラマも、取り扱っている時代や人物に興味が湧けば、数年に一度くらいのペースで視聴しています。戦国時代や明治維新には積極的な関心を抱けないので、これらの時代を題材としたドラマはほぼまったく見ないのですが、たまに自分が関心を持っている時代や人物を取り上げることがあるので、その年は結構熱心に見ています。最近では、視聴率はあまり芳しくなかったようですが、10年ほど前に放送された『平清盛』が秀逸な作品で、面白く見ていました。

 このような次第で、昨年放送された『鎌倉殿の13人』も、脚本家のことはさて置き、放送前からかなり期待して配役などを考えていました。北条義時が主人公なので承久の乱がクライマックスになることは間違いなく、その一方の旗頭である後鳥羽上皇を誰が演じるだろうというのが最大の関心事でした。放送が始まると、三谷幸喜流の小芝居が所々に入るのに目を瞑ればドラマ自体の出来はまずまずで、義時役の小栗旬や源頼朝役の大泉洋の演技も充実していて、それなりに楽しんで見ていましたが、頼朝が伊豆に流されるに至った平治の乱の経緯をまったく語らなかったことと、後白河法皇とその周辺の描き方が終始浅薄かつ戯画的であったことは、ドラマの奥行きをやや底の浅いものにしていて、今後の展開に些かの懸念を抱かざるを得ませんでした。

 残念なことに、この懸念は当ってしまいました。後鳥羽上皇の配役はなかなか明かされなかったのですが、歌舞伎役者になるのでは、という大方の予想通り、尾上松也が演じました。松也はいい役者だとは思うのですが、後鳥羽院らしい品格と凄みを十分に出すには至らなかったというのが率直な感想です。役者のニンだけで言えば、市川海老蔵(当時)が最善であったと思うのですが、團十郎襲名を控える身では起用はできなかったでしょう。

 その後鳥羽院を中心とする京方の描写も薄味で、前半の後白河朝廷の描き方と大同小異であったため、鎌倉との対立の構図が今一つ際立ちませんでした。何よりも最大の不満は、多芸多才な後鳥羽院が心血を注いだ『新古今和歌集』とその歌壇のことがほとんど触れられず、『新古今集』の撰者で源実朝の和歌の師でもあった藤原定家や後鳥羽院の皇子で承久の乱にも与して佐渡に流された順徳院、あるいは朝廷内の親幕府派の中心であった西園寺公経といった超一流の大物歌人たちが、慈円を除いて誰一人画面に登場しなかったということです。承久の乱の引金となった可能性が高い実朝暗殺の掘り下げも弱く、乱自体の描き方も駆足であったため、残念ながら十分なカタルシスを得るには至らなかったのですが、今まで注目されることの少なかった幕府草創期の暗闘と内訌の様相を克明に描き出して、それなりに見応えのあるドラマに仕上がっていたことは確かです。 

 という訳で、紫式部を主人公とする来年の大河ドラマも、大変楽しみです。史実と『源氏物語』世界との関りをどのように処理するかという難題はありますが、一方の主役となるに違いない藤原道長の権力掌握の過程(『大鏡』に語られる逸話なども取り込まれるでしょう)を織り交ぜながら話は進むでしょうから、きっと面白い作品に仕上がるであろうと期待しています。これを当て込んで道長や平安貴族についての関連書も続々刊行されていますので、皆さんも是非、熾烈な権力闘争を演じながらも決して血腥くはならず、文化の面でも大輪の花を咲かせたこの時代に興味を持っていただきたいと思います。


岡山学習センター機関誌「赤レンガ」Vol.66号(令和5年10月発行)より掲載

公開日 2023-12-22  最終更新日 2023-12-22

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