【学習センター機関誌から】Professional Report:心理学のさまざまな研究方法(2)

 青森学習センター客員教員弘前大学教育学部 教授
 田名場 忍

 

 実験などでは扱えない研究対象でも,他の研究方法を使えば研究できるのでしょうか。例えば,いじめの研究では,面接などを主とした事例研究や質問紙調査といった研究方法が使われてきました。
 質問紙調査は,各個人の意見や態度,経験などについて,質問への回答をデータとします。現実についての回答だけでなく,仮想状況についての回答や過去を思い出しての回答など比較的柔軟な尋ね方ができますので,いじめや暴力行動など特殊な課題も含めて幅広く研究対象にできます。また,教室に集まってくれた対象者に一斉に回答を求める集合調査など,短時間に多くのデータを集められる方法にもなります。匿名での回答や持ち帰りでの回答など,対象者の協力を得られやすい工夫もできます。 

 しかし,質問紙調査は対象者の言語能力に依存する点が特徴でもあり,弱点でもあります。対象者が理解しにくい質問では,たとえ回答が得られたとしても対象者の真意を反映するものにはなりません。また,一般的にプライバシーに関わる質問には回答への抵抗や歪曲が生じやすくなります。そして,歪曲された回答かどうかを見分けることは,質問紙調査では困難です。対象者が回答したくなり,対象者が回答して良かったと思える質問紙調査をつくることが,結果的にその調査を良いものにするのです。

 一方,面接は,対象者一人ひとりに応じて質問を変えることができ,言語以外の情報も得られるので,対象者の個別的で主観的な世界に近づく可能性を持ちます。しかし,質問紙調査同様に対象者の言語能力に依存する側面も強く,対象者との関係によって得られる情報が異なってくる難しさもあります。また,観察は,言語による応答が難しい乳幼児等も対象にでき,リアルな日常行動を扱うことができます。しかし,対象者が知られたくない日常を秘密裡に観察することは倫理的に問題ですし,たとえ対象者が観察を承諾した場合でもその行動は研究者を意識しての行動になることもあり,注意が必要です。

 このように,心理学では,さまざまな研究方法の中から,その長所と短所を比較しながら研究対象を適切に捉える方法を選択します。そして,時には既存の研究方法に満足できず,新しい方法が作られてきました。これが心理学でさまざまな研究方法が用いられる理由の一つになります。
 今回紹介しきれなかった研究方法もあります。皆さんも,この機会に調べてみませんか。

“Professional Report”は、青森学習センターと八戸サテライトスペースの客員教員が、専門分野について2回ずつ連載していくコーナーです。


青森学習センター・八戸サテライトスペース機関誌「りんご-林檎-」116号(令和5年10月発行)より掲載

公開日 2023-12-22  最終更新日 2023-12-22

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