【学習センター機関誌から】学ぶ楽しさをご一緒に

板橋 春夫
群馬学習センター客員教授
前 日本工業大学 教授

 

 

こんにちは。2023年4月から放送大学群馬学習センターの客員教授となりました、板橋春夫でございます。

私が専門としている民俗学は、柳田國男が創始した若い学問です。誕生が新しいために民俗学を学ぶ人の多くが大学や研究機関に所属しているわけではありません。民俗学は「野の学問」の異名があるように、在野の研究者が大勢活躍しています。これが他の学問と大きく異なる特徴だと思います。

現在は、筑波大学、國學院大学、成城大学、神奈川大学を始め、専門に民俗学を学べる大学が増えてきました。私の学生時代は、成城大学と東京教育大学の二つに専攻コースがあるだけでした。私は國學院大学のサークルである民俗学研究会に所属し、全国各地の民俗調査を体験しました。福田アジオ先生が戦後の民俗学史をまとめた『現代日本の民俗学』の中で、「國學院大学民俗学研究会卒業」という言葉を使っています。このサークルの卒業生が大学に職を得ています。私はサークル活動で民俗学を学んだ最後世代です。在野育ちですね。

研究会では、夏と冬に共同採訪が行われました。当時は「調査」などは畏れ多いということで、「民俗採訪」の用語を使っていました。田舎のおじいさんやおばあさんに昔の暮らしのことを教えていただくのです。実際に多くを学びました。おじいさん、おばあさんが私の先生でした。春休みは、伊豆伊東の民俗学者 木村博が所有する猪山荘で研究合宿です。昼間はミカン園で夏ミカンの剪定をし、夕方からはきびしい研究発表が続きました。発表準備のため国立国会図書館へ何度か出かけた体験が図書館司書という職業を選ぶきっかけとなります。

このように、私は大学の専門課程で民俗学を体系的に学んでいません。サークル活動で育ち、いつも見様見真似でした。伊勢崎市史編さん室時代の職人調査で、職人から仕事のコツとして「見様見真似」「仕事は盗むものだ」と聞きまし た。私の民俗学の学びは、職人のそれによく似ていると思います。真似ることから学びが始まることを実体験しました。

気がつけば民俗学を教える立場になっていますが、そこでも先輩の指導法を見様見真似で学んできました。私は激動する時代を動態的に描く司馬遼太郎のファンですが、藤沢周平の静態的な文学作品も好みます。人間は動と静を行ったり来たりするものだと思います。学問の世界はどうでしょうか。講義での実践として、司馬の得意な「余談であるが」を使っています。学生の皆さんから先生の余談が面白かったと言われて赤面することがあります。

民俗学は面白いです。身近な生活文化へ深い眼差しを注いでいくことの楽しさを味わいながら一緒に学んでいきましょう。どうぞよろしくお願いいたします。


群馬学習センター機関誌「上州」第87号(2023年7月発行)より

公開日 2023-11-24  最終更新日 2023-11-24

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