【学習センター機関誌から】”カウンセラー”という仕事との出会い





石川 須美子
大分学習センター 客員准教員
別府大学 文学部准教授
専門分野:臨床心理学・発達障害
/カウンセリング担当

子どもの頃、どのような夢を持っていましたか。私の将来の夢は、天文学者になることでした。
小学校4年生の頃に宇宙の始まりを知りたいと思い、宇宙という未知なるものに心惹かれていきました。
しかし、私にとって天文学者への道は険しく、進路変更を余儀なくされました。
次に選択した進路は、「特別支援学校の教員」でした。客観的には大きな進路変更に見えると思いますが、私としては宇宙の次に興味の持てることを、何となく選んだにすぎませんでした。

特別支援学校の教員になるために学び始めた大学で、人生の転機となるウイリアムズ症候群の女の子との出会いがありました。ウイリアムズ症候群とは、1~2万人に1人の割合で発症する染色体異常です。
彼女は、自分の気持ちや考えを上手に伝えられるほどの言葉を持っていませんでした。
彼女との関わりの中では多くのすれ違いが生じ、お互いにもどかしい気持ちを抱えることも数え切れずありました。
そのおかげで、気持ちを上手に表現できない人たちの心を理解し、支援する仕事をしたいと思うようになり、私は“カウンセラー”という生涯の仕事を見つけました。
昨年、彼女はお亡くなりになりました。ウイリアムズ症候群の方の多くは心臓の奇形があり、身体が大きくなることは心臓への負担を増やすため、長生きすることが難しいのです。
彼女と出会い、共に過ごせたことに、深く感謝しています。

さて、気持ちを上手に言葉にできないのは、障がいのある人たちだけでしょうか。誰しも言葉にならない気持ちを抱えたことがあると思います。
そして、言葉にならない気持ちほどタチが悪く、私たちを不安にさせたり、イライラさせたりして、心に重くのしかかるように感じています。
自分でも理解できず、他人にも伝わらない苦しさほど、厄介なものです。ある意味で、その気持ちを明確に言葉で説明できた時点で、悩みの半分は解決しているようにも感じます。
言葉にならない気持ちを一緒に考え、言葉として紡ぎ出し、その気持ちを持て余さないようにお手伝いをすることが、カウンセラーの仕事だと思っています。
カウンセラーは誰よりも、人の心も自分の心も簡単には解らないということを理解し、解るための努力を惜しまない存在であると思います。

人の心は未知なるものです。このように考えるようになって、私は子ども時代の天文学者の夢とカウンセラーとしての仕事が、つながっていることに気がつきました。当時は「宇宙」、今は「心」という解らない存在を理解したいと思っています。
どちらも、人類にとって普遍的で永遠の疑問ですが、このような繋がりが見えた時に、私は自分の人生が繋がったように感じました。

未知なるものに対峙することは、時に興奮や好奇心を喚起しますが、不安や恐怖を感じることでもあると思います。カウンセリングは、言葉にならない未知なる気持ちとの遭遇でもあると思います。
カウンセリングの場で出会う方々と、様々な気持ちを分かち合いながら、そっと寄り添うことができるカウンセラーでありたいと思っています。


大分学習センター機関誌「ゆふ」第112号(2023年10月発行)より

公開日 2024-01-23  最終更新日 2024-01-23

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