【学習センター機関誌から】『COVID-19 と遺伝の話』

大阪学習センター 客員教授 酒井規夫
(大阪大学大学院医学系研究科 教授)

今年度から客員教授としてお世話になることになりました、酒井規夫と申します。
現在は大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻の成育小児科学で看護師教育、研究を行なっています。
元々は小児科医で専門は小児科学、先天代謝異常症、臨床遺伝学、などです。先天性の疾患、特に遺伝性疾患の診療、研究を中心に置いています。
放送大学の勉強会では身近な病気や人間の特徴と遺伝の関係を一緒に考えています。参加者の皆さんが本当に熱心で、いろんな質問をしていただけるので、それについて一緒に考えたりわかりやすく説明するにはどうしたらいいか考えたりするいい機会を頂いています。


さて、今の医療の中で遺伝学は非常に重要な側面を持っており、がん診療や難病診療などにおいて、ゲノム診療という言葉が一般診療の中にこれほど深く関与するようになるとは、長らく医療に関わっている立場としても驚くばかりです。今後ますます先進医療にとって、この遺伝学、遺伝子検査、遺伝子治療など遺伝に関わるキーワードが連な
ることになりそうです。
一方で、昨年から世界を驚かせているCOVID-19 ですが、この現象を理解するにも遺伝の理解は必要です。まずウイルスが存在するにはホストとしての生命体が必要で、細胞に侵入するためにはその表面のウイルス受容体が必要です。ただ、これは細胞側からすればウイルスのために持っているわけではなく、本来の機能がある受容体に、ウイル
ス側にくっつくための目印を作り出すことによって、ライフサイクルを成立させています。そして今回の新型コロナウイルスにはそれが人間のACE2 という受容体であること、くっつく目印が変異によってさらに強くなったりするということがわかってきました。


つまり、これはウイルス側の遺伝情報の変化によって、昔はコウモリの風邪ウイルスだったのが、人にとって人類史上でも稀にみる大感染ウイルスに進化したと言えます。また感染者の重症化などについても、ホスト側の免疫や炎症に関する様々な遺伝的な背景も関わっていると考えられますが、まだまだわからないことがいっぱいです。でも
このCOVID-19 についての研究が、人に関して感染症のみではないいろんな生命現象の機序をさらに解き明かしてくれるような気がします。そういう研究が進むことによって、本当の意味でただの感染症であるCOVID-19 と正しく付き合っていくことができるようになると思います。
まだしばらく、COVID-19 との戦いは続きそうですが、その裏での医学の進歩を期待したいと思います。


(大阪学習センター 機関誌『みおつくし第82号』より)



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公開日 2021-08-18  最終更新日 2021-08-18

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