【新任所長挨拶】 新任所長として(愛媛学習センター所長・吉田正広)

愛媛学習センター所長
 吉田正広

 2023年4月1日に愛媛学習センター所長に就任しました吉田正広です。
 私の専門分野は、イギリス近現代史です。イギリスにおける第一次世界大戦の戦死者の追悼や戦争記念碑の問題を「悲しみの場」として、また、地域社会の問題として研究しています。この研究テーマは、愛媛大学法文学部時代に「四国遍路と世界の巡礼」研究にかかわって、迷いながらたどり着いた研究テーマです。2022年3月に『ロンドンにおける戦死者追悼と市民――「民衆の巡礼」と「市民的愛国心」――』(晃洋書房)にまとめました。

 ある時、テレビのニュースで、ウクライナの教会で戦死した兵士の葬儀の様子を見ることがありました。遺族の悲しみが素直に表わされておりました。ロシアの教会でも同じような場面がありました。私の研究対象と同じことが、現在起きているわけです。私には、まるで世界が第一次世界大戦の時代に戻ってしまったかのように感じます。
もちろん、私自身が第一次世界大戦を体験した訳ではありません。研究書や当時の新聞、写真を史料として戦死者追悼に関する「歴史的事実」を求めて研究しています。

 その一方で、文学作品はわれわれの「心」に迫ります。つい先ごろ、イギリスの現代作家ケン・フォレットの小説『巨人たちの落日』を読みました。第一次世界大戦期のウェールズの炭鉱地帯の農村の若者たち(貴族の子弟もいれば、炭鉱夫の子弟もいます)が、様々な境遇の中で、第一次世界大戦にかかわる様子を描いています。もちろん主人公たちの戦場での様子も描かれます。読み進むと、自分が第一次世界大戦当時に生きているかのような錯覚に陥ります。まさに作品が私の心に迫ります。フィクションであるが故の文学の力です。

 歴史学の研究成果や文学作品を通じて過去を知ることは、現代を理解することにつながると思っています。歴史学や文学という人文学の学びです。この学びがすぐに仕事や社会に役立つ訳ではありません。しかし、現代の世界を理解することはできると思います。放送大学での学びを通じて、社会で生きていく方法を、あるいは活躍するための方法を、知らず知らずのうちに身につけるものではないでしょうか。放送大学が教養学部であるのも、偶然ではないと思っています。

 さて、放送大学が設置されたのは1983年、放送による授業開始(開学)が1985年4月で、開学と同時に学習センター(群馬・埼玉・千葉・東京第一・東京第二・神奈川)が発足します。その業務は、①面接授業と単位認定試験、②番組の再視聴、③学習の参考となる図書・学術雑誌の整備、④学習相談、⑤教務関係窓口業務でした(『放送大学二十年史』放送大学学園、2004年、55頁)。
 学習センターは、放送大学開学当初から重要な役割を割り当てられていたわけです。愛媛学習センターは1995年に発足し、地域の学びの拠点として活動して来ました。もちろんデジタル化が進む中で学習センターの役割も変化することを求められています。そのような中で改めて地域の学びの拠点としての愛媛学習センターを大切に育てていきたいと思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。


愛媛学習センター機関誌「坊ちゃん」第112号(令和5年6月発行)より

公開日 2023-08-23  最終更新日 2023-08-23

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