【学習センター機関誌から】「マスク」で覆われたコミュニケーション

 

長崎学習センター客員教授 永田 康浩 
(専門:医学系)

 

すっかり「マスク」の着用が当たり前の日常になりました。
20年前、私が米国留学から3年ぶりに帰国した時、横断歩道を行き交う人々がみなマスク姿なのを見て東京で何か恐ろしいことが起こったのではないかと思わず妻と顔を見合わせたことがありました。その直後にマスク着用で現れた友人から花粉症予防と聞き何となく安心したことを思い出します。それほど、欧米には「マスク」を見かける日常はありませんでした。


今回のコロナパンデミックへの対応の違いでもわかるように、彼らは声を発しながらの大袈裟な挨拶だけでなく、握手やハグなど人と人の触れ合いをコミュニケーションの一つとして大切にする文化があります。
今回のコロナ禍においても、「マスク」はこのコミュニケーションを遮るものとして欧米では当初なかなか受け入れられなかったようです。さすがに今では欧米でも「マスク」をする光景を見かけるようになりましたが、果たしていつまで続くのでしょうか。


さて、人類は進化の過程でコミュニティを作ることを選択し同時にコミュニケーション能力を身につけ、やがて他の生物にはみられない長寿を得たと言われています。コミュニケーションとは、言語や文字、その他視覚・聴覚に訴える身振り・表情・声などの手段によって人間が互いに意思・感情・思考を伝達するものです。


今回のコロナ禍でメールやオンライン会議、あるいはSNSなどを介した言語や文字伝達のコミュニケーションに慣れていく一方で、直接声を発したり、「マスク」なしの会話や互いに触れ合ったりするコミュニケーションに対して警戒感を抱く社会になっていくことに逆に不安を感じます。コロナ禍が過ぎ去ればもとにもどるだろう、といった楽観論もありますが、これを期にロボットやAIの活用が加速することは間違いありません。
人類の発展に寄与してきた本能的なコミュニケーションを置き去りにして人間はどのような進化の道を辿るのでしょうか。ダーウィンの進化論によると「変化できるものが生き残る」とされています。結果は後世でしか知り得ないとはいえ、私は大いに興味があります。


長崎学習センター機関誌「出島」106号より

公開日 2022-01-18  最終更新日 2022-11-08

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