【学習センター機関誌から】化石燃料について考える

富山学習センター 所長
森岡 裕

 

私達人間は水や空気がないと生きていけないことは、誰もが認める事実・現実です。それに近い事実としては、私達はエネルギーがないと生活していくことが難しいということです。家電製品や電子機器、通信機器のおかげで、便利で快適な生活を送ることができます。電力会社のコマーシャルみたいですが、電気の無い生活は考えられません。試しに、いっさい電気を使わない生活を送ってみてはどうでしょうか。おそらく 3 日ともたないと思います。

ところで世界の電力の多くは(約 60%)は、今のところ化石燃料(石炭、石油、天然ガス)によって生産されています。逆にいうと、再生可能エネルギーでまかなわれているのは 3 割程度(28%)です。脱炭素、地球温暖化抑制という世界的な課題の実行に際して、「悪者」扱いされている石炭ですが、発電源としては重要な役割を果たしています。特に経済発展の著しいアジア・太平洋地域では、石炭の役割は大きく、発電源の 57%を占めています。

ちなみに日本の電力も、30%は石炭火力でまかなわれています。「不愉快な事実」かもしれませんが、エアコンやコンピュータといった私達の暮らしを快適にしてくれている製品を支える電力の約 1/3 が、石炭火力によってカバーされています。また世界の石炭貿易において、総輸入量は 31.78EJ(エクサジュール=1018J)ですが、その約半分の 14.43EJ を中国、日本、韓国の北東アジアの 3 ヶ国が輸入しています。日本を含めて北東アジアは、石炭の大口輸入地域です。このような状況を無視して石炭火力の全廃を今すぐに実行すると、日本を含め世界の多くの人々(特にアジア・太平洋地域)に電気の使用を抑制することになってしまいます。

もちろん地球環境問題の解決という世界共通の課題達成に向けて、再生可能エネルギーにシフトしていくのは当然の流れであり、それを否定するつもりはありません。

再生可能エネルギー関連の事業やプロジェクトの推進に向けて、資金(投資)が流れていくようにすることは重要です。ただ再生可能エネルギーが主要なエネルギー源となるのは、21 世紀の後半です。そうすると現実的な方向としては、再生可能エネルギーの強化・脱炭素を推進しながら、石炭を含めた化石燃料を環境に負荷をあまりかけない方法で利用していくということになります。このようなコース、つなぎの方策を経て 21 世紀後半には脱炭素、地球環境保全が達成されると考えられます。

細かな数字にこだわったようですが、ここで言いたかったことは、現実・事実を出発点として、理想・目標を追求することの重要性です。定めた目標・理想にとって「不愉快」と思えるようなことでも事実は事実として認め、より良い方向を模索していくことがどのような分野でも必要です。生涯学習は、自分の一生をかけて学ぶ自己実現の場です。理想をしっかりかかげながら、より望ましい解を追求していくという姿勢の大事さを理解していただけたら幸いです。


富山学習センター機関誌「たんぽぽ」vol.123(発行 令和5年7月)より転載

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