富山学習センター客員教授・富山大学名誉教授
椚座圭太郎
(専門分野:地球科学・減災教育)
ウクライナ戦争は、島国、地震国である日本のエネルギー源のリスクを再認識させた。日本のエネルギー自給率は10%程度であり、化石燃料に限れば2%以下である。日本が、エネルギー資源輸出国であるアメリカや、国境をまたぐ送電線や天然ガスパイプラインでリスク分散できるEUと同じエネルギー政策にするのは難しい。
EUは、昨年カーボンフリー政策として原発と天然ガスタービン発電に補助金を出すことにしたが、地震国日本では、地震動による蒸気管損傷でメルトダウンした福島第一原発と同じ仕組みの既存型原発の再稼働は出来ず、ウクライナ戦争は原発攻撃リスクを顕在化させた。
カーボンフリー政策にかかわらずEUが天然ガスタービン発電を認めたのは再エネ推進に必須ということもある。日本でも再エネは需要の全量をまかなえる容量になったが不安定で平均稼働率が10%程度の電源であり、これをターボファンジェットエンジンと似た構造で、原発並の出力があり、20分ほどで最高出力に達する天然ガスタービン発電で補う。
再エネは、設置場所不足、土砂災害、廃棄処理やバードストライクなどの問題も浮上しているが、それでもなおエネルギー自立のために、天然ガスタービン発電とペアで推進すべきである。
ウクライナ戦争によりアメリカがEUや日本などに天然ガスを含めたロシア産化石燃料を購入しないことを要請したことで、ますます天然ガスに厳しい時代になった。しかしロシア産天然ガスや石油に大きく依存するドイツやイタリアなどはドルではなくルーブルで購入を続けている。日本もサハリンの天然ガス田開発に22%資本参加しており、長期契約で価格が安定して輸送時間やコストが低いことから権益を放棄しないと決めている。自動車用の石油なども含めた自給できないエネルギー源については、国民の生活や経済を守るために現実的な政治判断が必要である。
カーボンフリー政策の矢面にたつ石炭は、地球全域に産し埋蔵量も多く保管も容易なので、日本のエネルギー源確保のために重要である。日本は石炭火力発電の先進国であり、燃費が従来型の7割になる超々臨界圧石炭火力発電と日本にも大量に存在する低品質石炭をガス化して利用する石炭ガス化複合発電がある。
しかしカーボンフリー政策のために、石炭火力発電所が廃止や建設中止になり、この夏発電所不足による節電要請が出される。また前者のプラントメーカーや商社は撤退しはじめ、世界初で3つの発電所が営業運転に入っている後者の研究が打ち切られた。地球の温暖化寒冷化は太陽活動を反映したものなので、石炭=悪との政策は科学的とは言えず、日本の安定エネルギー源の確保、先進技術による世界貢献の道を閉ざすべきではない。
エネルギー自給率を高めるには、消費量を減らすのも重要である。産業用エネルギーは石油ショック以来3割ほど減っているが、家庭用もふくめた民生用は増えている。これを下げるには節電よりも住宅の断熱が効果的との試算がある。日本の住宅の断熱性は低く、これをエアコンで冷暖房するコストは大きい。さらに太陽光パネルを住宅屋根に設置することは、自家発電するとともにエコキュートでお湯として貯める、プラグインハイブリッド自動車に蓄電することで、再エネの不安定さを軽減し、設置場所問題を解決し、大規模停電への備えになる。国策として個人負担を小さくする補助が求められる。
いずれにせよ戦後の復興から高度成長期の右肩あがりの経済成長を前提としたエネルギー論は見直すべきだ。島国+地震国という地政学的リスクをふまえた現実的な国策を、我々も当事者として考えて行動すべき時代になった。
富山学習センター機関誌『たんぽぽ』119号(2022年7月発行)
公開日 2022-12-16 最終更新日 2022-12-16