【学習センター機関誌から】今日の「学び」はどうでしたか?

小原 隆博

放送大学宮城学習センター客員教授
東北大学名誉教授

昨年度から、放送大学宮城学習センターで、授業や学習相談そして課外授業ゼミで、学生の皆様と接する事が出来ています。また、定年した事もあって、これまでに出来なかった東北史について、多賀城の東北歴史博物館の会員になって、学芸員による歴史講座を聞いたり、史跡を訪ねたりして勉強しています。そして、夜、眠る前に、今日の「学び」を振り返り、今日調べた事・考えた事、分かった事・分からなかった事を確認します。そして、明日・明後日の予定も考えるようにしています。

学生の皆さんが関心を持って調べておられるのは、どのような分野でしょうか?仙台の地理や交通といった内容かもしれませんし、仙台を題材とした現代文学かもしれません。私が興味を持っていることは、歴史的な史実や文献そして建造物です。今に残されたものは、見たり調べたりできますが、過去に戻って直接に歴史の現場を見ることはできません。過去を想像することが精一杯であると感じてしまいます。そして、歴史学とは、前回このコラムで川内先生が書かれていたように「歴史家と事実との間の、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話」だと、私も思うようになっています。

私たちの毎日の暮らしが、これから先の将来、どのようになって行くのかも、学生の皆さんのご関心と興味と思います。とても気になる未来ですが、将来を予測することはとても難しいことです。しかし、私たちには歴史というビッグデータがあります。これらのビックデータを詳しく分析調査することで、未来社会を予測する新しいモデルを構築することが可能となります。未来をデザインする力は、これまでの人間の歴史や知恵を学ぶことにより身につきます。そして、近年では人工知能の助けも得る事が出来るようになってます。

現役時代の私自身の専門は、宇宙科学でした。人工衛星を使って、太陽や宇宙環境を調べていました。私は、観測データから宇宙空間で起こっている嵐の状態や原因を調べていましたが、研究の目的は正確な宇宙天気予報(宇宙空間に発生する嵐の予報)を実現することでした。用いていた手法は、地球の天気予報と同じ手法です。地球の天気予報を学んで、宇宙の天気予報に応用しました。正確な宇宙天気予報の為に、基礎となる物理学の理解とともに、人工知能を用いて、過去のデータを再解析していました。

「古きを学び新しきを知る」という諺がありますが、“新しい事を考えるとき、これまでの知識や経験が役に立つ”というように、私は解釈しています。私たちが生きている今の時代とこれからの時代、想像を超えたいろいろな出来事が起こったり、予想を超えた社会の変化が起きると思われます。私たちは、これまでさまざまな経験をしてきています。そして、身の回りには、沢山の歴史的情報があります。今学んでいることは、未来の社会を考える基礎になると思います。放送大学での勉強が進んでいくと、学生の皆さんの心の中には、一つの確固とした考えが出来上がると思います。大事なことは、こうした考えを、家族をはじめ周囲の皆さんに伝えていくことではないでしょうか。自分が手にした「学び」を誰かに伝えたい、家族に伝えたい、子供たちに伝えたい、そう思っていると、勉強がより楽しくなっていくと思います。学生の皆さんの「学び」は、受け継がれていく「学び」です。日々悩んでいることや困っていることも、学ぶという姿勢を持つことで、未来に開かれたものになっていきます。引き続き放送大学で、学生の皆さんと共に話し合い、議論し合い、そして学びあって、より豊かな人生の時間を、共に味わっていきたいと考えています。


宮城学習センター機関誌「ハロー・キャンパス」第130号(2024年7月発行)より掲載

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