乾 陽子
放送大学福井学習センター
心理と教育コース全科履修生
福井学習センターで2023年度まで開催されていた、石井バークマン麻子教授によるゼミ「特別支援教育と共生社会」(現在はサークル「特別支援教育と共生社会研究会」)、私はここで共生社会とは何かを学び、自分に何ができるかを考えました。その実践の一つ、福井県庁「TeamUD」による「UDフォントの普及啓発活動」が、県庁クレドアワードで知事賞を受賞しました。その報告を兼ねて寄稿させていただきます。
1.UDフォントとの出会い
皆さんは「UDフォント」は何の略かご存じですか?「ユニバーサルデザインフォント」の略で、多くの人に分かりやすく読みやすいように工夫された活字のことです。Microsoft windowsには最初から「BIZ UDゴシック」「BIZ UD明朝」「UDデジタル教科書体」などが入っています。
フォントにはデザインだけでなく、読みやすさという重要な働きがある…私は5年前に当時三芳町の広報課職員だった佐久間智之さん(現PR DESIGN JAPAN㈱代表取締役)から聞いて驚きました。UDフォントの利用は、パソコンで文書を作る時に、明朝体やゴシック体を選ぶように「UD」と名の付くフォントを選ぶだけ。こんな簡単なことで人の役に立てるのにやらない理由はない!と私は“ひとりUDフォント利用促進キャンペーン”を始めました。それは、ひとりで語っていても大きなうねりには程遠いという現実を知ることでもありました。
そんな折、2023年に福井県障がい福祉課が全庁にUDフォント活用推進の文書を出しました。私は波を逃すまいと障がい福祉課に籍を置く放送大学のゼミ仲間などと一緒に、県庁でタスクフォース「TeamUD」を立ち上げ、UDフォントを普及啓発活動を始めました。これがチームの力で大きな動きとなるのです。
2.知ることが使うことの入り口
UDフォントが何なのか、まだ知らない職員が多いところに、担当部署から「使いましょう」という文書を送ったところで、はて?という思いだったようです。質問もなく、実践されているのかも分からない状態でした。そこでTeamUDから『UDフォントだより』を発行してバックアップすることにしました。
第1号では、チームメンバー自身が感じた「見えづらい方がどのように見えているのか分からないと、UDフォントがどのように役立っているのか理解できず、使う意味が実感できない」という点を解説しました。例えば数字「3・6・8」の判別には、隙間が繋がっているか空いているかをはっきりさせる必要があること、読字障害には細い線が消えてしまう見え方もあることを図示し、UDフォントの特徴を示しました。この際、フォントメーカー(株)モリサワの開発担当者や特別支援学校の先生などから、開発と活用双方の現場の実情をお聞きしました。発行後、質問や感想が寄せられました。中には、自分の状況を理解してもらえるようになったと、感謝の言葉もありました。
次に実践に向け、UDフォントをパソコン上で利用する具体的な方法を『UDフォントだより』第2号で紹介しました。今度は実務的な質問が増えました。チームメンバーは、やってみると疑問が出てくるという段階になったと嬉しく思うとともに、まだ自分たちがUDフォントネイティブとは程遠いと実感するようにもなりました。また、活動を県庁内限定とせず積極的に発信したため、県内包装メーカーから協力の申し出や、地元ラジオ局から出演オファーがありました。
『UDフォントだより』第3号では、活用効果をエビデンスと共に伝えました。UDフォント開発の発端は、家電に視認性の良いフォントを使おうということだったようです。その後、弱視・読字障害者そして高齢者(老眼)・外国人など多様な特性の方に読みやすいことが分かり、さらなる開発が進められています。目指す共生社会は、障がいと言われるものが特性と捉えられるまで敷居を低くするものと私は考えていて、このUDフォントが、障がい者と呼ばれる方も、高齢者と呼ばれる方も、その呼称ではなく特性に配慮することで同じ「伝わる」という感覚を満たすことができるという、ゼミの答えの一つになるのかもと意識して掲載しました。
そして、この県庁内のTeamUDの活動は3か月という期間限定であったため、最後となった『UDフォントだより』第4号では、「伝えたい情報は、相手に伝わらなければ存在しないのと一緒」という辛口な真実を記しました。障がいは特性と前述しましたが、UDフォントが逆に読みづらいという特性をお持ちの方もいます。伝えたい相手に伝わるように、自分で工夫してほしいとの思いをまとめた最終号でした。
3.活動はチームだが実践は全ての個人
さらにUDフォントの普及を進めるために、これらの成果をまとめて、「クレドアワード2023」に応募しました。職員が自ら工夫して成果を出した新しい事業について、職員が互いに投票し、表彰するものです。そして結果は知事賞受賞でした!
2024年度が始まり見渡すと、県庁職員の名刺・名札など新調するものはUDフォント、文書もUDフォントが主流となっていました。問合せも高度なものが増えました。私たちは答えを伝えるのではなく、何がベストか一緒に考えて進めるよう心掛けています。TeamUDは公的活動の期間を終えましたが、チーム名を幅広く対応できる「TeamUD」としたように、これからも常に現場に寄り添い考えながら活動を広げて行きたいと思っています。
4.おわりに
最後になりましたが、放送大学福井学習センターでゼミの指導教官であった石井バークマン先生とゼミ仲間に厚くお礼申し上げます。放送大学での学びが実務の中で展開できたこと、そして私が目指していた社会に踏み出せたことを嬉しく思います。共に学び行動し、現場では担当者として重圧を引き受けてくれていたゼミ仲間の布川さんには感謝してもしきれません。これからの研究会での切磋琢磨が楽しみです。
公開日 2024-11-22 最終更新日 2024-11-22