【学習センター機関誌から】外国語のすすめ

兵庫学習センター 客員教授
坂本 千代
(専門分野:フランス文学)

 

 

大学のフランス語教師として30年以上働いてきましたが、ときどき「なぜフランス語を学ぶ必要があるのですか?どうしても外国語が必要なら、英語ができれば十分ではないですか?」と言われることがあります。その時はだいたい以下のように答えています。

外国語は人生をより豊かに楽しくするための知識です。
ある人は「新しい言語を学ぶことはもうひとつの人生を生きるようなものだ」と言いました。
未知の外国語を学ぶ時には、だれでもまず生まれたての赤ん坊のように一歩ずつ基礎的なことから覚え込んでいかなくてはなりません。

ただ、小さな子どもと違って、私たちは大人の頭脳を駆使してより効率的にその言語を学ぶことができます。大人はまた、新しい言語を自分のすでに知っている言語と比べたり置き換えたりして、そのおもしろさや複雑さを味わうことができます。

「言語は世界を見るための窓」と言った人もいました。ひとつの窓(母語)だけでなく、2つあるいは3つ以上の窓があると、この世界の多様な側面を捕えやすくなります。
そしてこれらの窓(言語)にも様々な特性・個性があるのです。

以前のことですが、友人と話していて「中年の危機」という言葉が出てきました。これはもともとmidlife crisisから来た言葉のようです。
この「中年の危機」に相当するフランス語表現はと言うと、厳密な心理学用語は別にして、よく使われるものはdémon de midi、直訳すると「真昼の悪魔」です。(『ディコ仏和辞典』で調べると「中年を襲う性愛の誘惑」と説明されています。)
このdémon de midiを「中年の危機」と比べてみると、「中年」を(人生の)「真昼」とみなし、(性愛の)「危機」を「悪魔」と擬人化(?)するフランス人の感性はとてもおもしろいと思ったものでした。

16世紀の神聖ローマ皇帝カール5世(スペイン王カルロス1世)の言葉とされるものに「馬にはドイツ語で、鳥には英語で、友人にはフランス語で、恋人にはイタリア語で、神にはスペイン語で話すべきだ」というのがあります。
また、18世紀末から19世紀初めにかけて活躍したスタール夫人の『ドイツ論』には次のような文章が出てきます。

「ドイツ語は自然描写にフランス語は社会描写に使うべきである。
 ゲーテは『ヴィルヘルム・マイスター』の中であるドイツ人の女性に、恋人がフランス語で手紙をくれたので、彼が彼女から離れたがっていることに気づいたと言わせている。
 事実フランス語には、言外の言葉や、あることを言わないための言葉、約束することなく期待させたり、拘束することさえないのに約束するためなどの多くの言い回しがある。
 ドイツ語にはそんな柔軟性がない。そしてそのままでよいのだ。」
 (『ドイツ論1』梶谷温子ほか訳、第1部第12章)

皆さん、もうひとつ新しい言語を勉強してみてはいかがでしょうか?


 兵庫学習センター機関誌『つばさ』2022年9月発行(第66号)より

公開日 2022-12-16  最終更新日 2022-12-16

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