【学習センター機関誌から】国際共通言語は学びの必須条件

放送大学東京渋谷学習センター 客員教授
早稲田大学ビジネススクール 教授
菅野 寛
(専門分野:経営学)

 

 

私は早稲田大学ビジネススクールで経営学を教えているが、このコラムではあえて私の専門ではない「学びのための国際共通言語(現代では英語)の重要性」について述べたいと思う。

ビジネスの最先端の知識を学ぶためには必然的に英語が必要になる。最先端の知識が日本から生まれるとは限らないからだ。
翻訳を待っていては世界に3−4年遅れてしまい、国際競争に勝つことはできない。

世界がインターネットでつながった現代だからこそ国際共通言語が必要になったのか?実はそうではない。
太古の昔から狭い自国の中だけでは最先端の知識を得ることは困難で、知識人は国際共通言語を学んで知識を貪欲に吸収していたのである。

ここではその例として古代東アジア、近世ヨーロッパにおける国際共通言語に関して紹介したい。(ただしこれは私の専門分野ではないことはお断りしておく。)

古代(日本では縄文〜平安時代)の東アジアにおける共通言語は中国語であった。
当時、日本国家の成立に貢献した1人に聖徳太子(厩戸皇子)がいる。聖徳太子が604年に制定した十七条憲法の第一条は「一に曰(い)わく、和を以(も)って貴(とうと)しとなし、忤(さから)うこと無きを宗(むね)とせよ。」から始まる。
ところがこれは翻訳である。

聖徳太子が書いた原文は中国語であり、「一曰。以和為貴。無忤為宗。」である。そもそも当時の日本には平仮名、片仮名はまだ成立していなかった。
当時世界の最先端国は中国であり、日本の知識人は国際共通言語である中国語を学び、中国語で最先端の知識を吸収し、国を治めるための事務文書も中国語で書いていたのであろう。

近世ヨーロッパに目を向けてみよう。
近世ヨーロッパの天文物理学はコペルニクス(ポーランド人)が唱えた地動説から始まり、その後、ケプラー(ドイツ人)、ガリレオ・ガリレイ(イタリア人)によってさらに進化し、ニュートン(イングランド人)によって体系化され完成した。
それぞれ異なる時代の人物であるが、先人の書いた論文を熟読した上で、さらに理論を発展させていったものと思われる。

さて、ポーランド人、ドイツ人、イタリア人、イングランド人がどんな言語で意思疎通をしていたのか。
当時のヨーロッパの共通言語はラテン語である。彼らは全て著書をラテン語で書いているのだ。
ニュートンはイングランド人なので、彼の「自然哲学の数学的原理」は英語で書かれたと思われる方いるかもしれないが、実は彼はラテン語で書いているのである。

最先端の知識を学ぶための国際共通言語の必要性は、インターネットで世界がつながった現代に始まったことではないのである。
もちろん、最先端の知識を日本語で学ぶことができることが放送大学のメリットではあるが、是非、英語で直接学ぶことにもチャレンジしてはいかがであろうか。


 東京渋谷学習センター機関誌『渋谷でマナブ』2022年10月発行(第16号)より

公開日 2023-01-20  最終更新日 2023-01-20

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