【学習センター機関誌から】コロナ禍の夜明けに向かって

東京文京学習センター客員教員

国立国際医療研究センター病院長 杉山 温人

放送大学の皆さん、私は2021 年度から放送大学の教員に加わった国立国際医療研究センター病院長の杉山です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は日本国内では2020 年1月に初めて報告されました。その後、COVID-19 は日本国中を席巻し、今に至っています。このウイルスはコロナウイルスに属していますが、通常の感冒を引き起こすコロナウイルスとは違い、新種のウイルスです。人類は誰もこのウイルスに対する免疫を持っていなかったため、世界中に蔓延する事態に至りました。このようなパンデミック感染症は1918 年から1920 年にかけて発生したスペイン風邪以来です。

現代の医療では感染症は過去の疾患として扱われ、これを専門とする研究者も医師も少なく、資金も乏しい状況にありました。その中でのパンデミックであったため、日本のみならず世界中の医療体制が後手後手に回ってしまいました。特に日本の医療機関は平時の体制にジャストフィットしていたため、このような非常時の備えができていませんでした。日本では病院の数こそ多いものの、どこもギリギリの人員でやり繰りしており、緊急事態に対応できる人員の余裕を持っていなかった事が医療崩壊を招いた真の原因です。言わば、「薄く広く」が裏目に出た訳です。

このウイルスの狡猾な点は、発症する1~2 日前から感染させる力を持っていることです。自覚症状もないまま他人に感染させる点で、インフルエンザとは違っています。また、エボラやSARS、MARSのように病原性が強ければ、宿主が死亡してしまい、感染が拡がらないのですが、COVID-19 は、そこまで病原性が強くないため、感染者が元気に動き回り周囲に感染を拡げてしまいます。なかなか制御が難しい事がお分かりいただけるでしょう。


この1 年半の経験で、治療法に関してはかなり進歩してきました。感染初期は抗ウイルス薬(レムデシビル)、後期はウイルスが引き起こした炎症がメインですので、抗炎症薬(ステロイドや免疫を押さえる薬剤)を使用します。肺炎に関しても、挿管して人工呼吸器を装着するだけでなく、マスクを用いた非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)、さらに高濃度酸素を使用するネーザルハイフロー療法(HFNC)が有効な事が分かってきました。人工呼吸器を装着すると患者さんの意識をなくすことが通常ですので、寝たきりになります。その点、 NPPV やHFNC では患者さんは意識もあり、自分で動くこともでき、患者さん、医療者双方にとってメリットがあります。治療薬に関しては、新規薬剤の開発にてこずっていますが、特記すべき点はワクチンの開発です。今までのワクチンであれば開発に10 年はかかるところを、今回はわずか1 年で開発したのです。開発期間が短いと言う点で安全性に不安を持たれる方も多いと思います。多くの感染者は重症化することもなく治っていくのですから、重症化リスクの高い人から接種を受けるべきでしょう。また、エッセンシャルワーカー(医療者だけでなく、警察、消防等も含めて)にも必須だと思います。その他の人はリスク、ベネフィットを天秤にかけ、個々人が判断して接種を受けて下さい。

「明けない夜はない」です。このコロナ禍においても学びの気持ちを持ち続けて勉学に励んで下さい。


(文京学習センター機関誌「文京通信No.12」2021年7月掲載記事より)


機関誌『 文京通信 』バックナンバーはこちらから→https://www.sc.ouj.ac.jp/center/bunkyo/about/magazine.html

関連記事
インターネットで
資料請求も出願もできます!