放送大学山梨学習センター所長 村松 俊夫
ものごとにはすべて、「基礎」や「基本」があります。学問や技術の分野では、「基礎研究」とか「基本技術」と呼ばれているもので、私が専門とするデザインの世界にも「基礎デザイン」という領域があります。
学問や技術などで体系的に整っている姿は、ある見方をすれば1本の樹木にたとえられます。つまり「根っこ」は「基礎」、地上の太い「幹」にあたる部分が「基本」、枝分かれしていくところが「応用」でしょうか?さらに上に向かって細分化していく小枝や葉の部分が「先端」という領域といえます。
いうまでもなく、現実社会に貢献する多くは、先端・先進の枝に咲く花と、その果実のところです。また、最も先端である花のめしべには、ほかの樹木と触れあうことで別の花粉がつくこともあります。
先端領域で今までにない発想や考え方が生まれるのは、このような状況の中で、他の樹木の花々と交流した「融合領域」における場合が多いのです。先端・先進の分野は、その意味で常に新しい可能性を秘めているといえましょう。
しかし、たとえ美しい花が咲き、豊かな実りが得られても、それが1回こっきりで持続性のないものならば極めて残念です。花や枝葉が枯れても幹や根がしっかりしている木は生命力保ち、また次の新たな枝葉を伸ばして花を咲かせることができますが、幹を失った枝、根を腐らせた幹は生きていくことができません。
このように、「基礎・基本」をおろそかにした、あるいは無視したものは、いっとき手に取った際には華やかに見えても、わずかの間に萎れてしまう「切り花」の運命にも似て、むなしいものがあります。
近年、社会の様々な分野でデジタルへの転換が進み、その細分化・専門化にも拍車がかかりました。ICT、IoT、Society5.0、DX、などなど、周囲には横文字のイニシャルがあふれています。
放送大学とても例外ではありません。面接授業にも「同時双方向ライブ授業」や面接とオンラインを併用する「ハイブリッド授業」が導入され、単位認定もWebによる「IBT(インターネット ベイスド テスト)試験」が始まろうとしています。
このような高度情報化時代に生きる私たちとしては、それらを理解し、吸収し、使いこなしていかなければなりません。しかし、そんな世の中だからこそ「自分にとって何が一番しっくりくるのか」。もう1度自身の「基礎・基本」に立ち返ってみることも必要でしょう。
植物は、枝葉ばかりが繁茂するとやがて幹は細り、根は養分を吸収する力を失います。そのような事態にならないよう幹や根の見えない部分にも気を配り、絶えず新しい肥料を施してバランスのとれた成長を図っていかなければなりません。
それは当然、私たちの常日頃の学修についても同じことが言えるのではないでしょうか。
山梨学習センター機関誌「おいでなって」通巻85号(2022年7月発行)より
公開日 2022-11-18 最終更新日 2022-11-18