『災害社会学(’20)』 (放送授業・テレビ科目)

担当講師:金菱 清
(関西学院大学教授)

<推薦者のコメント>木村 聡さん(全科履修生)

災害社会学をおすすめします。

この科目との出会いは昨年の冬季学習期間。第11回の「幽霊」の回を偶然視聴したことでした。
当初は「幽霊が社会学のテーマ?」という違和感がありましたが、東日本大震災後の被災地で非科学的な現象を社会として受け入れているという内容に、これまでの社会学の講義とは異なる新鮮さを感じました。東北の人間として東日本大震災というテーマに触れたかったということもあり履修を決めましたが、今となっては講義の内容以上に「生きるとは何か」を考えさせられた時間であったように思います。

能登半島地震をきっかけにこの科目に関心を持った人もいるでしょう。
もっとも、東日本大震災後の東北を研究対象にしたこの科目の内容が、必ずしも時期も地域も被災規模も違う他の災害にそのまま当てはまるとは限らないかもしれません。
しかし、ある日突然当たり前のように存在していた人や暮らしを奪われた人たちが、「自分だけが生き残ってしまった」「なぜ自分は生きているのか」という葛藤を抱える中で精神的に現実を受容し再び立ち上がっていく過程は、人それぞれ形は違っても、誰もが感じるところではないでしょうか。

もちろん政策的・科学的に災害対策を行うことは大事です。しかしそこでは、実際に災害後の社会の営みの中で確かに行われている「被災者それぞれの心の復興」は個人の問題として見過ごされがちでもあります。フィールドワークを通して、実際に被災した地域で「なぜそれでもこの地域で生きるのか」を問いかける、災害大国日本に住むなら触れておきたい異色の社会学です。


<金菱先生からのコメント>

お勧めいただき、ありがとうございます。授業の内容の肝をずばりとまとめていただいています。
異色の社会学という評価ですが、あるコンテクストから別の場所へ移し、異和を生じさせるという、シュルレアリスムという考え方があります。ロートレアモンの『マルドロールの歌』(1869)に「ミシンとコウモリ傘との解剖台の上での偶然の出会い」という言葉がよくあらわしています。

社会学には本来このような偶然の出会いが多く含まれています。古典のヴェーバーが書いた「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」も宗教と経済とが本来結びつくはずのないものが交差する仕組みを解き明かしたものです。これを意外性の社会学と呼んでいます。

本講義では、普通災害といえば防災に重心が置かれイメージしがちですが、それらをほとんど扱わずに、夢とか幽霊とか災害と全くかけ離れたトピックを捉えながら、死者の問題を中心に据えて進んでいきます。

災害という不条理のただなかにおいて、不条理そのものを理解するためにはどうするのか、それらを真正面に捉えてみると、お勧めされているように、「生きるとは何か」というみなさん自身の生き方とどこかしらの重なりをいつのまにか持ちます。その意味で単なる社会の隅っこの自分とは関係ないことを勉強するというよりは、より本質的な意味を「災害社会学」の講義で考えてみることになると思います。


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 放送大学シラバス 『災害社会学(’20)』


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公開日 2024-04-30  最終更新日 2024-04-30

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