沖縄学習センター客員教員 森山克子
(専門分野:給食管理、調理学、食育)
【医食同源(いしょく・どうげん)】
病気を治す薬と食べ物とは、本来根源を同じくするものであるということ。食事に注意することが病気を予防する最善の策である。また日頃の食生活も医療に通じるということ。「医食」は医薬と食事、「同源」は根源が同じ意。(三省堂辞典)
「医食同源」は、沖縄では古来、中国料理や日本料理でもない「琉球料理」として受け継がれてきました。ウィズコロナの時代は、まだ続きそうですね。「医食同源」の琉球料理の歴史や特徴などについて学び、免疫細胞の材料になるタンパク質(島豆腐、豚肉など)や沖縄の太陽の下で育つため、抗酸化作用が期待できる島野菜なども加え、バランスのよい食事を楽しみたいものです。また、秋から連続テレビ小説「ちむどんどん」がクランクインします。演出の木村隆文さんは「このドラマには、たくさんの沖縄料理が登場します。沖縄出身の黒島結菜さんとともに、料理をはじめ沖縄の魅了をたっぷりとお伝えしたいと思います。」とお話されています。沖縄の料理が話題になる前に、沖縄の食文化の背景や身近な調理法であるチャンプルーの本当の定義などについて学びませんか?文献などから参考・引用してご紹介します。ぜひ、沖縄の「宝物」である琉球料理を受け継いでいきましょう!
【琉球料理の歴史と特徴】
沖縄は、琉球王国時代から東アジアのシンガポールまで広く諸外国と交易し、王国は、外交手段として「客人を料理でもてなす」ことを大切にしてきました。特に、中国と日本の影響を受けて、その融合の上に中国料理でもない、日本料理でもない独特な料理が生まれました。肉食文化・油脂文化でアジクーターと表現する濃厚な味わいを好む文化が発達し、魚文化を主とする淡白な和食との違いが顕著であることが特徴です。本土とは異なり、祝事、法事とも豚肉などの料理をお供え、焼香後共に食べる「供食」という食習慣も琉球料理の継承を支えてきました。
王朝時代からつながる料理は、その特殊性、数の多さ、質の高さのどれをとっても特筆するべきものであり、一県の郷土料理の域を超え一つの国の料理といえるほどで、まさに沖縄の宝として大切に守りたいものです。宮廷料理を色濃く残しているのが東道盆です。王朝時代の中国文化の影響を象徴する豪華な前菜入れで、手の込んだ乾肴などが盛り込まれます。(写真は琉球大学栄養士養成コース提供)一方、庶民料理は、補類思想で豚を余すところなく食し「医食同源」が受け継がれ、食べ物が人をつくるという意識は県民の間に根をはっていました。また、県民は祖先を大切にし、年中行事の6割が清明祭、お盆など祖霊祭であるという報告もあります。特産物(田芋、ゴーヤ、島豆腐など)は無論、遠路、北海道の昆布を使用するなど多様性を取り入れ融合する独特な食文化が継がれてきました。
【琉球料理の調理上の特徴】
蒸し物、焼き物の料理がすくなく、炒め物、揚げ物が多いです。汁物は実だくさんにして汁も実もたっぷり食べるという合理的な調理法で、近年、健康効果が注目されています。イリチー(炒め煮)やンブシー(味噌煮)などにかつおだしと濃厚な豚だしを材料にすっかり含めてしまいコクをだすことが、沖縄の独特の調理法といえましょう。琉球料理は旨味を大切にし、このコクをアジクーターといいます。
【琉球料理のだしの特徴】
琉球料理は旨味を大切にします。だしなど手抜きをしないでつくります。沖縄県民の多くは、中国の影響をうけて濃厚なだしを好み、主にかつおだし、豚だしが多く使われてきました。鶏だしも使います。日常的には多くの家庭料理でのだしは、かつお節が多いようです。
小学校家庭科の教科書でみそ汁のだしをとる材料は、「いりこ」になっていますが、県内の小学校ではかつお節でだしをとることが多いです。このことからも県民のかつお節嗜好を察することができます。かつお節の使用は、減塩効果があり、血合い入りは鉄分がとれる優れものです。「かちゅー湯」は、沖縄が生んだ「究極簡単スープ」で古くから家庭で飲まれています。かつおペプチドの効果は①細胞を活性化させ、細胞内のDNAをつなぐ物質の原料となる②疲労物資、乳酸を分解する酵素を活性化し疲労回復効果が期待できる。③神経伝達がスムーズに行われ、集中力や思考力が高まります。
【琉球料理の特徴的な調理法】
琉球料理の調理法は、安次富先生は14種類で紹介されています。どれも知恵と工夫をこらした料理の方法があり、おいしい琉球料理として伝えられてきました。内容は略しますが、その中で間違って解釈されているのがチャンプルーです。なんでも混ぜることが「チャンプルー」ではありません。島豆腐がはいってない料理は「チャンプルー」とはいえないのです。庶民が日常に摂取するたんぱく質は、島豆腐であったことから「チャンプルー」の定義を「島豆腐と抗酸化力が期待できる島野菜を炒める」としたことは、理にかなっていると思います。島豆腐あってこその沖縄の家庭料理です。以下特徴的な調理法をご紹介します。
~琉球料理の特徴的な調理法~ |
【チャンプルー】 チャンプルー、は、豆腐と季節の野菜の炒め合わせる調理法です。豆腐はすぐれた植物性タンパク質ですが、ビタミンや食物繊維などが不足しており、野菜と合わせることでこれらを補える。栄養学的にも理にかなった料理といえます。ここでは、ゴーヤーチャンプルーを紹介します。ゴーヤは、ビタミンCを多く含んでいるので、沖縄では夏バテに効くとしてよく食べています。 主な料理:チキナチャンプルー、マーミナチャンプルー、ゴーヤーチャンプルーなど 【イリチー】 イリチーは、乾燥食品、根菜類、水分の少ない食材を利用して、出汁や炒め煮にする調理法です。 ここでは、チデークニー(島ニンジン)は肉質が柔らかく煮物や汁物などによく使われます。カロテンが豊富に含まれ、沖縄では古くから滋養食として料理されてきました。 主な料理:クーブイリチー、かんぴょうイリチー、血イリチー、ウカライリチーなど 【ンブシー】 野菜、豆腐、豚肉を味噌煮で煮込んだもの、煮物と汁物の中間くらいの料理、ウブシー、ウブサーとも呼ばれています。 主な料理:ンスバナーンブシー、ゴーヤーンブシー、ナーベーラーンブシー 【プットゥルー】 でんぷんが溶けてふっくらと固まった料理:ンムクジプットゥルー 【タシヤー】 油でいためた料理:ソ―ミンタシヤー、ナーベーラータシヤー ※ソーミンチャンプルーでなく本来は、ソーミンタシヤーである。 |
「何百年も受けつがれてきたものには 確かな理由がある」といわれています。沖縄の家庭で琉球料理離れが進んでいます。共に、琉球王国時代の外交を通して独自性が育まれた伝統を有しつつ「医食同源」に基づく料理としても食されてきた沖縄の宝物「琉球料理」を守り、次の世代へ継いでいきましょう!
参考・引用文献:琉球料理は沖縄の宝 安次富順子(琉球新報2021.3) 私の琉球料理 新島正子(柴田書店)
沖縄の伝統的な食文化の保存・普及・継承について(沖縄県ウェブサイトより)
公開日 2021-08-18 最終更新日 2021-08-18