【学習センター機関誌から】私とジェンダー研究①~中国近現代文学との出会い

放送大学神奈川学習センター客員教員 白水 紀子 

今年は日中国交正常化五十周年という記念すべき年にあたります。
五十年前の一九七二年当時、「中国に好感を持っている」と回答した人が八割を超えるほど日本は友好ムードに包まれていました。そういう年に大学に入学した私が第二外国語に中国語を選んだのは自然のなりゆきだったのかもしれません。
そして一九七五年の四年生の時に二年間の中国留学に旅立ちました。その二年間は、毛沢東の死去に伴い「四人組」が逮捕され、十年の長きにわたる文化大革命が終焉を迎えた一九七六年を間にはさむ、激動の時代でもありました。

毛沢東逝去のニュース(9月9日)は、このすぐ前に起こった唐山地震(7月28日)のために一時帰国し、再び北京に戻る飛行機の中で知りました。
さっそく私も北京大学の学生たちと一緒に天安門広場に行き、四人組打倒祝賀百万人大会に参加しましたが、そのとき目にした中国の人たちのあふれる笑顔を今も鮮明に覚えています。

実は、私はこの文革の「おかげ」でとても貴重な出会いをすることができたのでした。
というのは、北京大学でも文革の終了と同時に、農村へ労働に送られていた大学教授たちが続々と戻って来たものの、すぐには教壇に立たせてもらえず、それなら留学生相手ならばよかろうと、私たち留学生の指導教員に抜擢されたのが、著名な中国現代文学の研究者である楽黛雲先生でした。
私は楽先生の女性知識人としての壮絶な生きざまを知るにつれ、文革に至るまでの中国の歴史に思いをはせるようになりました(のちに楽先生の体験が綴られた『チャイナ・オデッセイ』が岩波書店より刊行されました)。


帰国後、大学院に進学して中国の近代文学研究を始めましたが、横浜国大に勤務し始めた八〇年代末から九〇年代初めは、日本でもジェンダー研究が研究分野として確立した時にあたり、私は研究の方向を中国の家父長制研究にシフトしました。
男性作家の研究を通して「大文字の歴史」を俯瞰した次は、ジェンダーの視点で中国社会を捉えなおし、「女の歴史」を再現してみたいと考えたからです。

その成果はのちに中国の女性文学を題材にして家父長制の特色を明らかにした『中国女性の20世紀――近現代家父長制研究』(2001)としてまとめることができました。
その作業の過程で、同じ東アジアに位置する日本とも共通する問題が多々あることに気づかされ、その後は日中比較をしながらジェンダーの問題を考えるようになりました。
放送大学で担当している講義「東アジアのジェンダーと社会」でも日本や中国のさまざまな事象をジェンダーの視点で分析する授業を行なっています。


 

神奈川学習センター機関誌「ふゆだより」第89号より

公開日 2022-04-18  最終更新日 2022-11-01

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