【新任所長挨拶】 北海道学習センター所長・山田 義裕

北海道学習センター所長 山田 義裕

新入生の皆さま、ご入学おめでとうございます。北海道学習センターの教職員一同、皆さまを心より歓迎申し上げます。
今年の冬は記録的な大雪でしたが、その雪も次第にとけてフキノトウが顔をのぞかせ、こうしてまた春がめぐってきました。皆さまは、当学習センターでの面接授業をはじめとする新たなキャンパスライフに向けて、きっと心弾ませていることでしょう。また在学生の皆さまも、勉学を更に進めようと決意を新たにしているのではないでしょうか。私たち教職員も、皆さまの学習を全力でサポートしますので、放送大学の豊富なリソースを大いに利用しながら思う存分ご活躍下さい。

大学ではそれぞれのカリキュラムに沿って学びを進めることが重要なのはもちろんですが、同時に既定の勉学の路線とは少し距離を置いて、いま生きている社会のアクチュアルな問題を自分なりに考えてみることも大切です。
いま私たちが暮らす社会は、人類の歴史において大きな変革の只中にあります。社会学者の見田宗介は現代社会を近代という爆発期から今後訪れるはずの未来社会という定常期への過渡期なのだと述べています。現代という過渡期の中で私たちが今直面している課題、あるいは近未来に直面するかもしれない問題は、近代社会がかつて抱えていた問題群とは質的に異なっていると思われます。それにともない、社会問題の解決方法も近代における思想や科学技術をそのまま応用するだけでは間に合わない可能性もあります。
近代における科学技術の進展はめざましく、それにより私たちの社会は急速に豊かになりましたが、逆にその科学技術が原子力のリスク(原発事故や核兵器使用)等の新たな問題を生み出しているのも事実です。このような現代社会のリスクに対処するためには、もはや近代の科学技術に頼るのみでは十分でないでしょう。いま私たちが必用としているのは、未来社会へむけての新たな思想なのかもしれません。

現代の世界的知性の一人であるユヴァル・ノア・ハラリは2017年に出版した『ホモ・デウス』の冒頭で、私たちはかつて人類にとっての大問題であった飢餓、疫病そして戦争をなんとか抑えこめるところまでたどり着いたと述べています。
しかし今、私たちは新型コロナ感染症パンデミックに見舞われて未だそこから抜け出すことができず、また今年に入ってからは20世紀に逆戻りしたかのような侵略戦争を目の当たりにしています。これらの惨状は、近代的問題の繰り返しの結果なのか、それとも人類の未来にとってより深い新たな問題が生じつつあるのか、それを必死に考えねばならない時代に私たちは生きているのです。
その考察は、世界の偉大な知性に任せていればよいものではありません。私たち一人ひとりが目の前のアクチュアルな問題に向き合い、自らの「生」や「生活」を足がかりに自分の頭で考え、互いに議論を交わしながら社会の問題に関与し続けることが大切です。

新型コロナ感染症の影響により、キャンパスでの活動が制限される状況がまだ続きますが、皆さまが存分に活発な議論や交流ができる日が少しでも早く訪れることを祈っています。


北海道学習センター 機関誌「てんとう虫」第127号より

公開日 2022-05-18  最終更新日 2022-11-01

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