学び方も人それぞれ 放送大学に集う多様な学生たち

No.129号(2020年1月)掲載記事。
「楽しい」だけでも「教養が身につく」だけでもない+αの大きな何かがある放送大学の「学び」

岩永 雅也 副学長(掲載当時)
(現学長 2021年4月1日現在)

ICDE(国際遠隔教育評議会)によると、世界には登録された機関だけでも70以上の国と地域に190の公開遠隔大学等が開かれています。アジア地域に限っても、AAOU(アジア公開大学連合)には47の公開大学が参加しています。

そのどちらにも中心的メンバーの一員として加盟している日本の放送大学は、他の多くの公開大学と比べ、2つの点で極めて特徴的です。

それは、①特定の職業や資格とかかわらない教養中心のカリキュラムを提供していること、そして、②学生の平均年齢がとりわけ高いこと、です。「教養中心の高等教育を行う生涯学習機関」というのが、これまでの放送大学のユニークな性格でした。

しかし、今、そうした特徴に明らかな変化が生じています。たしかに、カリキュラムの中心が教養に置かれ、それが学ばれていることに変わりはないのですが、それに加えて、職業的能力・スキルの涵養や、特定の職業的資格取得のための講座への要望も明らかに増えているのです。

放送大学の側でもそれに応えて、職業的能力や資格に関わる科目を年々増やしています。同時に、10代~30代の学生数も増えつつあり、現在では、全学生のほぼ3分の1を占めるまでになっています。放大に勤務して30年になる私の目にも、トレンドの変化は確実に感じられるところです。

もちろん、若い学生層だけが「学びを活かす」ことを目的としているのではありません。中高年であっても、さらに高齢の方であっても、職業や家庭生活、地域活動、ボランティア活動等々に活かすことを目指して学修している学生は決して少なくありません。

「学びを楽しむ」という姿勢に「学びを活かす」という新たな、そして重要な目的が加わってきた放送大学のこれからにますます期待が膨らみます。


 

寺嶋祐子さん

 

日本語教師としての成長をめざして入学

以前、秘書の仕事をしていたときに英語に興味を持ちました。独学から始め、英会話教室に通い、ニューヨークへ留学。

英語学習中に、人に日本語を教える機会もあったことで、日本語指導を極めたくなりました。そこで大使館関係の方々と日常英会話のエクスチェンジレッスンを開始。通信講座でも学び、日本語教育能力検定に合格し、語学学校の日本語教師に転職しました。

転職先の先輩教師に、仕事で成長したい思いを相談。放送大学の名前が出たので調べたら、言語系教科が多かったので入学しました。

受講してみると、日本語教育能力検定の内容に近い教科もあり、仕事に役立っています。

検定受験をめざす方にもお勧めです。

その後、入学1年1カ月後に出産。妊娠中や産後は体調が悪い日もありました。育児、家事、仕事と勉強との両立も大変です。でも、休むと再開が難しくなると思い、なんとか1科目でも取るようにして、少しずつ勉強を続けてきました。自由度が高いのも放送大学の魅力です。

入学当初から授業は主にスマートフォンで聞いています。産後は子どもが睡眠中にイヤホンをつけて勉強するようになりました。今までやっていた教材を見ながら音を聞く集中学習に、今は家事をしながら音だけを聞く、ながら学習も組み合せています。

面接授業や単位認定試験の日は、夫や実家の母が子守りや家事を協力してくれました。

家族のサポートが難しいときは、区の一時預かり保育を利用したこともあります。

東京文京学習センターでは、休憩時間の搾乳に保健室を使わせてもらえました。ある日、搾乳が長引き、授業に遅刻…。

私の不在理由を他の学生さんが先生に説明し、理解いただけたときも嬉しかったです。

寺嶋祐子さん

言語系の教科を中心に興味ある分野を追究

私の場合、学位取得より、言語系を中心に興味がある分野の知識を深めることを優先しています。「日本語とコミュニケーション(’15)」の授業では、日本人特有の言わなくても察する文化や、人との距離の取り方などの学問的解説が納得できました。

外国人と接する仕事なので、見聞を広げるために、「西洋芸術の歴史と理論( ’16)」や「『古事記』と『万葉集』(’15)」を学びました。子どもの言語に関する授業では、生後10カ月までは複数の言語の聞き取りができること、語彙修得のしくみも知ったので、夫と0歳の息子に日本語も英語もたくさん話しかけました。この説は、私自身でも研究を続けたいです。また、こうした話題は、ママ友だちとの会話も弾みます。

面接授業「ピアノで辿る音楽史」では、先生のピアノ生演奏が聞け、癒されました。興味深い授業が数多くあるうえに、新しい教科も増えているので、教科選びも楽しみの1つです。

正直、放送大学には堅い、渋いというイメージを持っていましたが、人生で初めて、さらに入学2年経った今でも感じるのは、学ぶ楽しさ。

知識の引き出しが増え、その知識が役立つたびに放送大学のキャッチフレーズ「教養はエネルギーだ。」を実感します。


深瀬美帆さん

祖父が学んだ放送大学へ

大学の農学部を卒業後、大学院に進学し、キャベツの品質保持の研究をしていました。勉強も実験も楽しかったのですが、研究職にとらわれることなく、幅広い業界、業種を対象に就職活動をしました。

就活中に実施した自己分析で、毎回、介護福祉系が向いているという結果が出たため、様々な業界の企業が集まる合同説明会に参加。そこで、現在、勤めている訪問介護の会社と出会い、インターン体験後に就職しました。

入職してすぐに介護職員初任者研修の修了試験に合格、翌年、視覚障害を持つ方の外出支援に必要な同行援護従業者養成研修(一般課程及び応用課程)の研修を修了。さらに3年後には、実務者研修を受講して介護福祉士の国家試験に合格。資格取得が一段落した頃、介護系の学校で学ぶ実践的な内容と違っても良いから、私自身の力になる知識を身につけたいと思うようになりました。

そのとき、思い出したのが、祖父が生前、定年退職後に通っていた放送大学です。調べたら教科が充実しているうえに、無理のない学習計画を自分のペースで立てられることや学費にも魅力を感じ、入学しました。

お試しの選科生を経て、全科生に

大学院を卒業してからブランクがあり、続くか不安だったため、選科履修生となり、前半期は知識のある農学や生物系の教科で学習ペースをつかみました。後半期は、仕事で障害のある方々へのサービス提供を行っているので、「障害を知り共生社会を生きる(’17)」と医療用の紙おむつや人工透析に関する内容もあった「物質・材料工学と社会(’17)」を選択。

難しそうな工学系教科にトライできたのは、その分野が得意な友だちが選んだので、わからないことは聞けると思ったからです。

放送大学で友だちをつくろうとは考えていませんでしたが、同世代が集まる「若者の集い」のイベントや飲み会に参加していたら自然に学友ができました。

久々に1年間学び、とても楽しかったので2019年10月に生活と福祉コースの全科履修生となりました。まずは、「在宅看護論(’17)」「疾病の回復を促進する薬(’17)」の2教科を選択。

社会人になってから様々な場面で幅広い知識が必要になることを痛感したため、今後は介護に役立つ教科をメインに、他の分野も積極的に学んで視野を広げ、私自身の内面を豊かにし、お客様それぞれの歴史や生活に寄り添える介護をめざしたいと思いました。

スケジュールの調整で仕事と学業を両立

仕事が忙しい期間は勉強を休み、余裕ができたら集中学習するなど、スケジュールを自分で考えられるのも放送大学の魅力です。

試験日が決まっているのもありがたく、事前に仕事の調整をしたり、会社の時間休対応を活用して15時まで仕事をし、夕方、試験を受けた日もあります。

プライベートでは、バンド&フェス好き。休日にはエレキギター教室にも通い始め、ライブハウスで大好きなバンドの楽曲を演奏しました♪

仕事も放送大学での学びやギターレッスンも、ワクワク充実の毎日です。


亀甲将生さん

高校中退後、学位取得にチャレンジ

高校時代、人間関係で躓いて不登校気味となり中退しました。以来、いわゆる引きこもりの生活を送っていましたが、今のままではいけない、どうしても大学で学位を取得したいと思い、高卒認定を取得。授業料が安いことに加え、以前から興味があった心理学と教育学の両方を学べる放送大学の存在を知り、今年の4月「心理と教育コース」全科履修生として入学しました。

放送授業は10科目、面接授業は3科目選択しています。現在は週3日アルバイトしながら勉強する日々です。自宅からアルバイト先への行き帰りのバスの乗車時間も有効に活用し、1日1時間半ぐらいを学習時間に充て、主にスマホやテキストを使って勉強しています。できれば4年間で卒業し、認定心理士など資格取得も目指しています。

とはいえ、全科履修生はコマ数も多く、毎日コンスタントに勉強するのは大変で、モチベーションを維持するのは思ったより難しいなと感じています。

出会いの場が、向学心の支えになる

そんな私の心の支えになったのが、人との出会いの場です。入学前、放送大学は自宅にこもってひとりで勉強するイメージでしたが、実際は先生から直接指導を受ける面接授業や少人数でひとつのテーマを研究できるゼミに参加できるなど、人と出会う機会も意外に多く、刺激を受けています。

また、ツイッターで知った交流サークル「若者の集い」にも参加しています。他の学生たちと勉強会を行うことで、情報交換に役立ち、モチベーションも高まります。

みな世代が近いので、普段思っている悩みや不安を話しやすく、「悩んでいるのは自分ひとりじゃない」と気づき、仲間意識も生まれ、コミュニティも広がった気がします。

実は、引きこもりの状態のときは家族としか話さない毎日でした。放送大学に入学し、人と話す機会が増えたことで、徐々に自分自身も変わってきていると思います。

心理学を専攻したのも、自分自身を変えたい、自ら行動を起こし、自立したいという気持ちが大きかったからです。

将来は自分の経験を生かし、不登校の子どもたちを支えられる職業に就き、経済的にも精神的にも自立したい。放送大学はそのための大きな一歩になると思っています。

“若者の集い”〈千葉学習センター〉

10~30代の学生中心のサークル「若者の集い」は、ツイッターなどSNSで所属学習センターを限らず参加者を募り、月1回開催。代表の太田吉宏さんはこう語る。「勉強やキャリアについて語り合うグループワークが中心です。平等に発言できる機会を作り、不安や悩みを分かち合いながら交流を深めています。」

公開日 2021-02-04  最終更新日 2022-11-25

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