名古屋大学名誉教授
佐々木 康寿
(専門:木質環境設計学・木材工学)
愛知学習センターで『都市の木質化』ゼミを担当しています。私は木材の土木建築利用を目的とした強度特性や力学的耐久性、そして木質環境設計に関する研究に従事しておりました。また、交流のあった仲間の皆さんとともに都市木造や都市空間における木質環境設計を通じて森林と都市の双方を良好な状況に導こうとする活動に関わっておりますことから、前述のゼミを担当させていただいております。
木材は私達の身近にある材料で、おそらく普段はあまり気に留めることもないと思いますが、地球上では毎年約34億㎥の樹木(丸太)が伐採されていて、このうちの約半分の15億㎥が建築用材を含む工業材料として利用されています(FAO調べ)。これを重量換算すると約109tonになり全世界における鉄鋼の生産量に匹敵します。意識しているかどうかはともかく私達は日々の生活において木材を頼りにしているわけです。
ところで皆さんは「木は燃える、腐る、弱い、耐久性がない」などというふうに思い込んでいませんか?否定はしませんが、木材は使用環境(水、空気、温度)が整えばこれらの問題をクリアするだけでなくコンクリートや鉄・石などよりも長持ちします。利用上要求されるほとんど全ての項目に対して中庸な性能を持ちますが、ローテクで何かに突出して秀でた性質を持つわけではありません。一方で、樹木は成長する過程の光合成による炭素蓄積がカーボンニュートラル効果を有することから脱炭素・温暖化抑制のために木材利用が好ましいと認識されています。
例えば、写真は約30年前に完成した欧州で最大規模(当時)の大型車両も通行する木造橋です。コンクリート橋や鉄橋でよく見かけるアーチ構造形式であったため「材料を木で置き換えただけ」として見下すような評価がなされたなかで「コンクリートや鉄で造っていたものを木でできることは素晴らしい」という意識も広がりました。
さて、現在の我が国で消費している木材のうち約65%は輸入に頼っています。少し前まで世界一の輸入量を誇っていた?のですが、皆さんはこのことが我が国には森林資源が少ないからだと思いますか?私達の眼前には緑溢れる森林が広がっていますが違和感はありませんか?
北欧諸国の森林資源蓄積量は我が国のそれより少ないにもかかわらず木材生産量は多く、自国産木材を利用して都市木造による都市計画すなわち『都市の木質化』を図り、環境都市を実現しようとしています。林業・林産業などの第一次産業が「産業」として成立し、製造業などの第二次・三次産業とともに国の経済を支えているのです。自国の資源・技術・人材を生かすことで経済の一翼を担い、温暖化ガス排出の抑制に貢献することで循環型社会の実現を目指し持続可能性を向上させようと努力しているのです。
森林都市環境に対する皆さんのさらなる理解を通じて自国産資源を活かした都市木造の存在が当たり前になるような社会に近づけたいと思っています。
愛知学習センター機関誌「しりあい」116号より
公開日 2021-08-17 最終更新日 2022-11-08