【2021年度研究功績賞受賞者インタビュー】人間と文化コース  野崎 歓 教授

放送大学の2021年度「研究功績賞」を受賞した、人間と文化コース野崎歓教授にお話を伺いました。

−野崎先生の研究内容をご紹介ください。
もともとはフランス文学のロマン主義と呼ばれる19世紀中頃の時代が専門ですが、その時代というのは、現代に直結するともいえる時代ですので、多岐に興味を広げながら研究をしてきました。小説が文学の中心になっていった時代を研究することで、現代の小説にも興味を持ち、翻訳を始めたり、フランスに留学したことで映画に触れる機会が増え、さらに興味の対象を増やしたりと、そもそも僕は性分として気が多いものですから、文学、映画、翻訳の3本柱でやってきました。

-この度受賞された日仏翻訳文学賞特別賞とはどのような賞ですか。
歴史としては四半世紀以上続いている、大変ユニークな賞です。フランスの文学作品を日本語に翻訳する功績とともに、日本の書物をフランス語に翻訳する功績も讃えるという、世界でも珍しい「日仏双方向」の翻訳賞なのです。今回、僕がいただいた特別賞というのは、不定期に設定されるレアな賞でして、26年間の歴史で受賞者は4人ぐらいだと思います。

あらためて受賞おめでとうございます。ところで、先生がフランス文学に興味を抱き始めたのはいつ頃だったのですか?
それは中学2年生の頃です。現在の自分が追求している興味は、14歳のころ一斉に芽生えたといっても過言ではないような気がします。それまでも読書は好きでしたが、中学に入るとちょっと背伸びしてむずかしげな文庫本などを読むようになり、なぜか「こりゃ、フランスだな」と思いました。まるで電流が走るような、あるいはスイッチが入るような、そんな感じですね。ですが逆にいうと、それからまったく成長がない(笑)、そのまま今日に至っているという気もします。

-青春時代に出会ったフランス文学の中で印象深い本は何ですか。
その一冊は、はっきりしています。タイトルは『月下の一群』、これは堀口大學という日本の有名な詩人でもあり、翻訳家でもあった人が、自分の好きな詩を翻訳してアンソロジーとしてまとめた一冊です。フランスの詩人が60人くらいずらっと並ぶ、いわば見本帳のような本です。初版は1925年で、その中に今でも忘れられないジャン・コクトーという人の「耳」という詩がありました。「私の耳は貝のから 海の響をなつかしむ」たったそれだけですが、当時の僕は、なぜか非常にシビれたのです。海に近い町で育ったということが影響しているのかもしれませんが、とにかく「いいなあ」と思い、一気にフランス文学の世界がひらけた、出会いの瞬間だった気がします。ですから『月下の一群』というのは、僕にとっては忘れがたい、ある種の恩を感じている一冊ということになります。

−ヨーロッパ文学の中でもフランス文学には特有の特徴があるのですか。
ヨーロッパの中で、フランスに特別な個性があるとしたら、やはりそれは言葉だと思います。歴史的にみても、ヨーロッパの中で最も早く文法が整備されていますし、ルイ13世がフランス語統一と純化を文化政策に加えたことで、フランス文化=フランス語だといえるくらい強力な背骨になっていきました。ロシア文学のドストエフスキーやトルストイまでもが、フランス語で文学に親しんだわけですから、19世紀までのヨーロッパ文学はフランス語が育てたといえるでしょう。

逆にいうと、フランス語さえ習得しておけば、フランス文学は誰にでも開かれたフィールドという気がします。それも、フランス文化の非常にコスモポリタンなところです。こうした開かれた国際性もフランス文化の重要な要素になっていると思います。

−最後に、先生の科目を受講される方へメッセージをお願いします。
この4月から「世界文学への招待」という新しい科目が始まります。僕1人ではなく、さまざまな外国文学の分野で活躍されている研究者、総勢6名でフランス、イギリスから、ラテンアメリカ、最後には韓国文学、日本文学という広範囲に渡って紹介する科目です。現代の文学が世界とどう向き合い、どんな問題に立ち向かっているか、そうした臨場感を感じていただける内容です。異文化を交流させつつ、現代を開拓する世界文学のイマをお伝えしますので、むしろ予備知識ゼロで新鮮に学んでください。

「 研究功績賞 」授賞式の様子

公開日 2022-04-18  最終更新日 2022-09-01

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