【学習センター機関誌から】異文化の接触するところに発見あり!

川村 和宏

放送大学 岩手学習センター 客員教員

「異文化接触」とはどんな場面を表す言葉でしょうか?理解しやすい異文化接触は、異なる国や地域の接触だったり、異なる言語や文化の接触だったりします。

東北地方には『魔の家と子供』という昔話が語り継がれてきましたが、これも異文化接触の結果生じた昔話の例です。その粗筋を簡単にご紹介すると、次のようなものです。

昔々あるところに生活に困窮した父と継母、兄と妹がおり、アケビやグミを食べて凌いでいました。父は継母と相談して、兄妹を山に置き去りにしますが、そこにはお菓子でできた家がありました。兄妹が訪ねたこのお菓子の家は、実は鬼婆の家で・・・。

明らかにドイツでグリム兄弟が収集したグリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』が原案であるこの昔話は、明治期以降いつの間にか日本の東北地方に語り継がれて、東北の昔話として佐々木徳夫という人物によって収集され、ついには河北新報に掲載されました。明治時代に初めて西洋のメルヒェンに触れた日本人が、ドイツのグリム童話を、アケビやグミなどの東北地方に自生する果物も書き加え、魔女は鬼婆と書き換えていました。それが日本の昔話として誤解され、語り継がれてきたのです。

これはある物語が異なる国、言語、文化に触れた際に生じた面白い展開と言えるでしょう。明治期に『ヘンゼルとグレーテル』を初めて読んだ日本の翻訳者の気持ちや、『魔の家と子供』を語り聞かされた子どもたちの気持ちを想像すると、なんだか楽しくなりますね。

さて、こうした例を見ると、もしかしたらグリム童話の内容自体もどこか遠い場所からやってきた類話に基づいていたのかも知れないと疑ってしまいますね。そして、実際にグリム童話には、フランスやアラブ、ギリシャ由来の物語も「ドイツで収集されたメルヒェン」として含まれていたのです。こちらは遙か昔の異文化接触の痕跡と言えるでしょう。

異文化が接触するとき、そこには憧れや嫉妬、発展と対立が発生します。国際的に国や地域が接触するところでは友好や対立が、言語を超えた文化が接触する際には誤解や発想の転換と思いがけない展開が生じます。ジャンルを超えた分野との邂逅からは予想外の着想が得られ、それまでの生活空間になかった思想と出会いは、あるひとつの時代の終わりと再生をもたらしてきました。総じて「異文化接触」とは、国や地域、言語や文化、学問や活動領域を分かつ境界を越境する行為と言うことができます。そして、異文化の接触するところには、きっと興味深い発見が待っています。外国語を学んだら、その知識を生かしてぜひ身の回りに異文化接触の場面を探してみてください。いままで当たり前だと思っていた光景が、全く別の意味を持っていたことが分かるかもしれません。


岩手学習センター機関誌「イーハトーブ」第195号(2024年7月発行)より掲載

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