下郷 大輔
作新学院大学講師
栃木学習センター客員教員
皆さんは、罪を犯して刑務所に収容された人達がどのような生活を送っているかご存じでしょうか。あまりなじみのない世界の話だと思いますが、受刑している方への対応もきちんと法に則って実施されており、近年その枠組みに変化が生じ始めているので、今回はこのことについて簡単にご紹介します。
罪を犯した人への罰は刑法で定められています。罪状によって死刑や罰金、有期や無期など刑の重さや刑の長さが異なるのですが、今回のトピックに関連するのは懲役と禁錮という内容です。
刑法において懲役とは「刑事施設に拘留して、所定の作業を行わせる(第十二条)」こと、禁錮とは「刑事施設に拘留する(第十三条)」こととされており、受刑中の多くの方は、懲役を科されていますので、刑期の間は刑務作業が義務付けられているのです。
この刑法が改正され、2025年6月からは、懲役と禁錮を一本化した拘禁刑が導入されることになります。これまでとの大きな違いは、懲役として科されていた作業の義務がなくなり、作業を行っていた時間に、それぞれの問題性や特性に応じた再犯防止や社会復帰に向けた指導を柔軟に行えるようになることです。近年は、闇バイトを通じた特殊詐欺や強盗、若年層に広がる薬物使用の問題が連日のようにニュースをにぎわせています。また、高齢者の犯罪・収容の増加も増加傾向にあります。このような方々は、社会復帰後に生活していく際に問題となる要因が多様であり、それぞれが抱える問題にあった対応を手厚く取ることを意図した変更です。
社会の安全や被害者の心情を思うと、私たちはこのような方たちに対して、「もう社会に戻ってほしくはない」という感情がわいても仕方がない部分があると思います。また、「罪を犯した者には罰を与えないと再犯をする」と考えられる方もいらっしゃると思います。しかし実際には、逮捕の末に収容された方々も、有期刑である限り刑期を終えれば社会に戻って生活を始めます。また、罰だけでは再犯は防げないという研究も広く確認されています。
そのため、受刑している方が、社会に戻って再び罪を犯さないように多くの支援(ここでは再犯防止のための指導や社会適応のスキルを向上させること)を受けることは、受刑している本人にとっても、社会で暮らす私たちにとっても重要なことであり、その機会を増やすことが意図されているのです。服役する方々は、罪を犯し、人を傷つけ迷惑をかけてきていますし、起こしたことに対して責任を取り、償う必要がありますが、刑務所では反省や償いを促すとともに、社会に再適応するための様々な取り組みがなされているのです。
栃木学習センター機関誌「とちの実」第131号(2024年1月発行)より掲載
公開日 2024-04-30 最終更新日 2024-04-30