【学習センター機関誌から】静岡県でブラタモリ

小山 眞人

放送大学静岡学習センター客員教授
静岡大学名誉教授

小山眞人先生

TRAVEL、世界地図、サングラスの写真

「ブラタモリ」は、著名なタレントであるタモリ氏が各地を旅するNHKの番組であるが、単なる旅番組ではない。番組の冒頭に旅の「お題」という謎かけがなされた後、その土地を知りつくした案内人たちが現れ、少しずつ解答へと誘ってゆく。「お題」は単純な問いかけだが、ひと筋縄では解けない。地形の微妙な高低差から土地の成り立ちを読みとり、目の前の風景や事物をつくり出した自然・社会・人の関わりを考えながら、最終解答に至る。

ブラタモリの案内人を務めるのは、大学や研究所の専門家、博物館やジオパークの学芸員や専門員のほか、地元で観光・文化関係の仕事に就く人たちである。彼らの得意分野は、地球科学・自然地理学・人文地理学・考古学・歴史学など多岐にわたるが、その土地の自然景観・歴史的景観・事物などの成立過程や成因をよく知る者たちである。

筆者は地形・地質の専門家として「ブラタモリ」のレギュラー回の5回(2015年の#19富士山、#20富士山の美、#21富士山頂、2020年の#153浜松、2022年の#208伊東:#番号は放映回)、ならびに「ブラタモリ×家族に乾杯」2018年初夢スペシャル(富士山・三保松原)と2025年の最新!富士山スペシャルの合計7回に案内人として出演する機会を得た。また、2022年の#224静岡では出演こそしないが裏方としてかなりの時間を費やした。これまで静岡県で収録された13回のうち半数以上の8回に深く関わったことになる。

ブラタモリの案内人は、単なる出演者ではなく、監修に相当する莫大な作業も裏でこなしている。最初の取材依頼は本番ロケのおよそ2ヶ月ほど前である。その後、何度も打ち合わせや現地下見を行い、取り上げる話題を厳選しながら、台本を作成する。この間、番組ディレクターは多数の専門家や地元人材への取材を行うとともに、誰を案内人とすべきかの選定も裏で行なっている。

台本が完成した後は、台本通りに歩くリハーサルを本番ロケの直前に実施し、細部をチェック・修正する。タモリ氏と彼の旅のパートナーである女性アナウンサーは本番ロケのみに姿を現し、台本の内容は知らされていない。本番ロケの大筋は台本に沿うが、台本を知らないタモリ氏のアドリブや脱線は番組を盛り上げる重要な要素であるため、それらも洩れなく収録する。その後、放送までの1ヶ月ほどの編集作業の中で、時間内に収めるための内容の厳選とナレーション・解説CGの監修に案内人も携わる。番組として放送されるのは、収録した映像全体の数分の1に過ぎない。

以上の過程を経て出来上がった綿密な構成と、タモリ氏の磨かれたユーモアと話術があいまって、多くの視聴者が楽しみながら納得できる番組に仕上がる。だからこそ土曜のゴールデンタイムに視聴率10%台を維持するのであろう。

残念ながら放送大学静岡学習センターのある三島市はまだブラタモリの題材となっていないが、素晴らしい素材をたくさん備えた場所である。近い将来にブラタモリ三島が実現する日を待ち望んでいる。


静岡学習センター機関誌「燈」第131号(2025年7月発行)より掲載

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