濱田 美和
放送大学富山学習センター客員教授

2024年一番の思い出は何ですか。私は資格試験に挑戦したことです。一発勝負の試験に挑んだのは30数年ぶり。緊張感漂う会場で朝から夕方まで試験問題にただひたすら向き合う集中したひと時、久々に味わった感覚がなんとも新鮮でした。
学生の頃、試験は嫌だけれども受けなければ仕方ないもの、できれば避けて通りたいものでした。それが今回、試験中の緊張感を楽しんでいる自分を発見し、こんなに長時間継続して取り組むパワーがまだ残っていたことに驚き、今の自分に少し自信が持てました。そして、試験は学習に効果があることを、実感をもって知る機会になりました。
昨春、本屋で分厚い試験対策本を購入したのが始まりです。学生時代に勉強した分野も含まれているし、11月の試験日まで繰り返し読んで練習すればなんとかなるだろうと軽く考えていました。しかし、若い頃のようにいかないことをすぐに思い知ることに!読んで内容は理解できても、問題を解くには用語や人名を覚えないとだめで、この歳でこれだけの量を覚えるのは無理かも…と次第に弱気になり、暑くなる頃には本を開くこともなくなりました。でも、9月の願書締め切り直前、なぜかふと思い立ち、勢いでそのまま申し込み、受験勉強を再開しました。
ふだん試験を作る側の仕事をしていますが、久々に受ける側の気持ちになってわかったこと、試験が控えていると学習がわずかでも進むということです。教育の分野でも、評価やテストを行うことによって、学習者の学習への意欲や動機を高めることが期待されると言われていますが、受験料を払い、会場近くの宿をとってとなると、準備しなければという気持ちにさせられます。通勤途中や寝る前の15分足らずの短い時間に単語カードをめくったり問題を解いたりして、覚えようと努力し始めました。
試験日の3週間前からは模擬試験の問題集に取り組みました。まだ覚えられていないことだらけでしたが、「テストを受けること自体に学習効果がある」という研究があったからです(cf. 中田達也(2019)「第5章 テストが記憶を強化する」『英単語学習の科学』研究社)。「テスト要素があると記憶への定着が高まる」という言葉を信じ、せっせとマークシートを塗りつぶしました。
そして迎えた試験当日、まず思ったことは「もっと勉強しておけばよかった」ですが、真剣に取り組み、無事に最後まで終えられたことに満足しました。さらに試験後思いがけない楽しみもありました。受験者がSNSで投稿していて、学生の頃も試験後に友達とわいわい話したなぁと懐かしく、同じ苦労をした仲間たちの投稿を読んで励まされました。
試験を通じて学生時代を思い出す一方、この歳になって初めて得たこともあり、挑戦してよかったです。今はすっかり元の日々に戻ってしまいました。新たに何か挑戦したいと思いつつも一歩踏み出すのは難しく、どうすれば自分を勢いづけられるか考えているところです。
富山学習センター機関誌「たんぽぽ」第129号(2025年1月発行)より掲載