北嶋 結
放送大学 青森学習センター客員教員
(弘前大学大学院保健学研究科 助教)
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の愛称である人生会議というと、会議をすることが目的のようにみえます。
しかし、意思決定が難しい状態になっても、本人の意向を尊重した医療やケアを行うことがねらいです。そのため、揺れ動く気持ちに寄り添いながら、医療やケアを提供できるよう、繰り返し話し合うこと、それが会議という愛称に繋がったと考えられます。
では、人生会議は必ず、やらないといけないのでしょうか。
話したくない話題である場合、避けたい気持ちが生じることもあるでしょう。そんな気持ちのままで、急に看護師等の専門職からそのような話をされた時、どんな気持ちになるでしょう。
国が推奨しているから、やったほうが良いといわれているから、無理にでも対応しないといけない?
そんなことはありません。ACPがどういうものなのか知るところから始めることでよいのです。
それでも、「私は話をしたくありません!」という決断も意思の一つととらえます。つまり、意思決定のプロセスの一部なのです。
考え方によっては、人生会議は生き方会議ともとらえることができます。
人生の最期に何を食べたいか、どこで過ごしたいか、なにをしたいか・・・。
人は死ぬまで生きていますので、死ぬための準備ではなく、最期まで希望を話し合うことにねらいを定め、話し合いをしていくことが人生会議のあり方といえるでしょう。
では、ACPでは何を話し合うのでしょう。
まずは、本人の気がかりや意向について話し合います。そして、代理人の選定です。誰に何をどこまで託すのかを話し合います。病状の予後の理解も大事になります。
それらを踏まえ、治療や療養に関する意向や選好、その提供体制について話し合います。病状の予後の理解については、医療従事者に積極的に関わってもらうところですが、その他の部分は、医療従事者だけではなく、福祉職の方、家族や友人・知人、近所の人もかかわることができるでしょう。
職場の人や地域の活動に一緒に参加されている方々にもかかわってもらうかもしれません。
その人にかかわる人々がACPを行うことができるともいえます。
人はかかわる相手によって、みせる側面をかえることがあります。また、かかわる人によって、その人のみえる姿が異なることがあります。
そのため、本人の意向を確認するときや揺れ動く気持ちの傾向を考えるときには、これまでかかわった多くの人々の声をきくことが大事になります。かかわる人からの情報により、その人の全体像が少しずつみえてきます。つまり、パズルのピース集めと同じです。
しかし、その人の本当の意向はわかりません。本人が意思決定できない場合には、より身近な人が集まり、その人の本当の意向に近づこうとすることに意味があるようにも思います。
今回は、ACPについてのお話でした。
まずは、ACPを理解するところからで構いません。皆さんの身近な人と話題にしてみるところから始めませんか。
青森学習センター機関誌「りんご-林檎-」第118号(2024年4月発行)より掲載
公開日 2024-06-28 最終更新日 2024-06-28