間嶋 隆一
放送大学神奈川学習センター 客員教授
横浜国立大学 名誉教授
(専門分野:古生物学・層位学)
2022年度から地質学・古生物学ゼミを開講いたしましたので、ゼミの紹介をさせて頂きます。
私は地層と化石から過去の環境を復元する研究をしております。この分野の学習と研究では野外で地層や化石の産出状況を直接観察することが何よりも大切です。
そのためゼミも野外での観察を中心に進めてまいりました。野外見学前に教室でセミナーを行い、私やゼミ生の皆さんが観察地の内容を紹介し、事前学習としました。
第1回目の野外見学地として7月26日に横須賀市の貝山緑地地下壕の見学を横須賀市の許可を頂いて行いました。
この場所は現在私が中心となって研究を進めておりまして、チバニアンで有名になった房総半島の地球磁場の逆転現象と同様なことが緑地全体で3回起こっている場所です。チバニアンの下限は78万年前に起こったマツヤマ逆磁極期とブルン正磁極期との境界を言います。
貝山緑地ではレユニオン正磁極亜帯の下限(214万年前)と上限(212万年前)に加えてオルドバイ正磁極亜帯の下限(193万年前)が確認されています。
これらの地磁気逆転境界は横須賀市から横浜市にかけて広く分布しています。よく「地球の磁場が逆転している房総半島に行ってみたい」というお話を横浜在住の方からお聞きするのですが、私は「地球の磁場が逆転している場所なら横浜には至る所にありますよ」と言っています。
第2回目の野外実習は10月14日に平塚市土屋の12万年前の下末吉海進期の堆積物を見学しました。
大磯丘陵には陸上堆積物であるローム層が広く分布しているのですが、この場所には水中で堆積したとされる吉沢(きっさわ)層が分布しています。見学した崖には植物化石を多量に含む黒色の地層が露出し、これまでの研究で泥炭層とされていました。
この場所も私が中心となって研究を進めている場所で、「泥炭層」とされてきた地層は典型的な泥炭層とは異なっているのではないかという結論を得ております。崖ではこうした点を中心に解説と見学をしました。
第3回目の野外見学は、12月6日に逗子から葉山にかけての海岸沿いの地層を見学しました。
海岸には三浦半島最下部の地層とされている葉山層群の森戸層と鐙摺層が広く露出し、葉山層群を上総層群が傾斜不整合で覆う露頭などが観察できます。見学では地質調査の基礎である地層の走向と傾斜の定義や測定方法なども実習しました。
2022年度のゼミは3名のゼミ生と行いましたが、放送大学のゼミに参加される皆様は大変前向きで、気持ち良くゼミを進めることができました。
この場を借りてゼミに参加された皆様と野外見学にレンタカーの使用をご許可下さったセンター長の大谷英雄先生に心から感謝いたします。
神奈川学習センター機関誌「OUJ神奈川学習センターふゆだより」第93号(令和5年3月)より
公開日 2023-06-23 最終更新日 2023-06-23