放送大学 神奈川学習センター 客員准教授
飯田 深雪
2015年にハンガリーのブダペストで、中高一貫教育のギムナジウムを訪ね、英語のみで授業が行われる英語イマージョンの授業を見学しました。
ブダペストは中央ヨーロッパの中心部に位置する古い都市で、「ドナウの真珠」と呼ばれ、トルコ風の温泉なども有名で観光客に人気のある都市ですが、共産主義時代の悲しい歴史もあります。
公用語とするマジャル語は、ウラル語族のフィン・ウゴル語(ロシア西部、フィンランド、エストニアなどで話される語派)に属していますが、周りはドイツ語やスラブ語などを使用する国なので、外国語を学ばなければ近隣の国々とコミュニケーションができない環境にあります。
孤立した言語といわれる日本語と似ていますが、他国と陸続きのヨーロッパでは外国語教育が深く根付いていることに驚かされました。
小・中・高の教育は、日本と同じように12年間で、小・中は、4、6、8年制から選択できます。4年制小学校を選択すると、その後、前期中等教育4年と後期中等教育4年を合わせた「ギムナジウム」と呼ばれる中高一貫プログラムに入学します。
ハンガリーのバイリンガル教育は100年以上の歴史を持ち、社会主義体制終結の1987年に10校のギムナジウムで、ロシア語、英語、ドイツ語、フランス語などのバイリンガル校が開設されて以来増え続けて今では小・中・高合わせて250校以上が、何かしらの形でバイリンガル教育を採用しています。
EU加盟以来増加した英語、近隣のオーストリアで働く人が多いためドイツ語が多く、他の言語はやや少ないようです。
EU統合で他の国々との行き来が増え、外国語が将来の生活や職業に必須であるので、近年若者が熱心に外国語学習に取り組んでおり、特に観光に経済を支えられているため、バイリンガル校の学生の中には大学で観光学を学ぶ者も多いようです。
小学校から英語、フランス語、ドイツ語(普通はこのどれか1つ)での科目授業を行う学校もあります。日本でいうアメリカン・スクールやドイツ学校と少し似ていますが、このようなプログラムが公立学校でも行われており、見学した公立のギムナジウム3校の教員たちもハンガリー語と英語、フランス語、ドイツ語などのバイリンガルまたはトライリンガルでした。
ところで、ハンガリーは昨年多くのコロナの犠牲者を出しましたが、いち早くワクチンを取り入れた国でもあります。因みに新型コロナウイルスのワクチンでファイザーとモデルナ社が扱う「mRNAワクチン」を開発したカリコー博士はハンガリー出身です。
先日、学校見学でお世話になったブダペスト商科大学(観光学部で英語やドイツ語での科目授業を行い、日本語学科も持つ)の教員にコロナ事情について伺いました。
この大学には中国、フランス、カザフスタンなどからの留学生がおり、2020年は遠隔で授業が行われたために、1~2か月で留学生が孤立し、アルバイトも失い、コロナの心配と主に文化の違いからコミュニケーションがうまく取れず、ストレスを抱え深刻な鬱病になる学生もいたということです。
自国にも帰れないので、教員がサポートを行ったそうですが、アジアの学生やイスラム教の学生などとの文化の違いにその時初めて気づかされ、留学生を受け入れるならば、その文化についても知っておくべきだと話されていました。
日本でも考えていかなければいけないことだと思います。
神奈川学習センター機関誌「OUJ神奈川学習センターなつだより」87号 2021年8月より
公開日 2021-10-15 最終更新日 2022-11-08