私は囲碁のプロ、人工知能の進化をひしひしと感じていた。囲碁だけは大丈夫という願望もむなしく、2016年3月、世界トッププロがアルファ碁に敗れた。潮目は変わったのである。
そんなときに思い出したのは、今は亡き国語の高校教師だった父との話し合い。宇都宮大学附属中学校3年生のとき、プロを目指すことを決意した。母は学業と両立することを勧めたが、中学卒業と同時に上京し、内弟子になった。幸い17歳でプロになれたが、18歳までになれなかったら、大学検定試験(現在の高校卒業程度認定試験)を受けると約束していた。時間は経過したが、チャレンジすることにした。高校の教科書を揃え、過去問に取り組んだ。また、インターネット上のコンテンツを活用した。8月の試験は見送ったものの、11月の試験に合格できた。囲碁の試合は、当日に決着がつく。試験翌日の速報で合格は確信していたが、通知が来るまでは落ち着かなかった。
大学入学の資格を得て、通信教育を考えた。いろいろと調べてみたところ、名だたる先生方のご講義が受けられる放送大学は、魅力的だった。師匠の住まいの近くには、世田谷学習センターがあった。現在は公園になっている。そんなこともあり、放送大学は知っていた。栃木学習センターのガイダンスでは、「最初は、無理しない方がよい」とのアドバイスを受け、入学時の登録科目は抑えた。2学期になり、初めて面接授業を受けた。受講完了後、講師の先生が、一人一人「合格」、「不合格」と判子を押してくれるのかと想像していたが、全然違った。
幸いなことに学部の卒業要件を満たし、大学院に挑戦した。パンデミックの中での大学院受験は、貴重な経験となった。マスクをしての試験、老眼鏡に曇りどめスプレーをするのを忘れて焦った。想定を越える問題で、眼鏡の曇りも気にならずに集中した。趣味の園芸では、学部での学びが役立っている。生涯学習の道は、始まったばかりである。
プロフィール
恩田 烈彦(おんだ やすひこ)
1964年 栃木県宇都宮市に生まれる
1982年4月 日本棋院プロ棋士初段
2017年2月 八段からの通算200勝により、九段となる
4月 放送大学 学部 社会と産業コースに入学
2021年3月 学部卒業
4月 放送大学 大学院 情報学プログラムに入学、
学部 自然と環境コースに再入学
※2021年12月27日 本誌掲載の記事です。
栃木学習センター https://www.sc.ouj.ac.jp/center/tochigi/
公開日 2022-02-18 最終更新日 2022-12-06