田城 孝雄
教授(生活と福祉コース)
地域包括ケアシステムは、2014年度制定の医療介護総合確保推進法第2条に、『この法律において、地域包括ケアシステムは、地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防(要介護状態若しくは要支援状態となることの予防又は要介護状態若しくは要支援状態の軽減若しくは悪化の防止をいう。)、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制をいう。』と規定されている。団塊の世代が全員、後期高齢者となる2025年問題対策として、社会保障制度改革国民会議のまとめた報告書に基づき、社会保障と税の一体改革が行われ、その目玉の一つとして、地域包括ケアシステムが提唱された。
「地域包括ケアシステム」という概念は、1980年前後から、公立みつぎ総合病院の山口昇院長(当時)によって提唱されていた。1994年第129回国会の健康保険法改正案の審議(1994年6月10日)の際に、参考人として、「20年前から、在宅ケア・在宅医療に取り組んできた。寝たきりゼロを目指して、保健・医療・福祉の連携システムを構築し、これを『地域包括ケアシステム』と呼んでいる」と発言した。その後、厚生労働省老健局に設置された2003年の「高齢者介護研究会」、2008年以降の「地域包括ケア研究会」で、地域包括ケアシステムの在り方が検討され、「植木鉢モデル(植木鉢図)」が提唱された。
団塊の世代が後期高齢者になることが課題であった2025年問題から、1971年から1974年の第二次ベビーブームに生まれた団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者になる2040年問題が、次のわが国の社会保障の壁として考えられている。2040年問題では、少子化による急速な人口減少による労働力の不足が懸念されている。2040年問題を受けて、2019年に全世代型社会保障検討会議が設置された。2023年の報告書では、全世代型社会保障として、「地域共生社会」の実現が提唱されている。地域共生社会の基本的方向として、「『支える側』、『支えられる側』という関係から、人と人、人と社会がつながり、一人一人が生きがいや役割を持ち、助け合いながら暮らしていくことの出来る包摂型の社会の実現が必要」とされている。
医療介護総合確保推進法第2条では、『高齢者が、住み慣れた地域で、日常生活を営むことができるよう』と規定されているが、地域で支援を受ける必要のある対象は、高齢者だけではない。障害者や引きこもりの方、経済的困窮者など、全世代にわたり、様々な困難を抱えて暮らしている人たちが存在する。そこで、地域包括ケアシステムの深化として、高齢者だけはなく、「地域包括ケアシステムの普遍化」として、総ての困窮者、孤立者を社会の一員として取り込み、支え合うことを目指している。これは、ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)の考え方と重なる。さらに、「leave no one behind(地球上の誰一人取り残さない)」というSDGsとの理念と重なり、深化した地域包括ケアシステムは、SDGsを達成する手段の一つと言える。
(この記事は、2023年7月20日に執筆されました。)
公開日 2023-08-23 最終更新日 2023-10-20