『西洋哲学の根源(’22)』 (放送授業・ラジオ科目)

担当講師:納富 信留
(東京大学大学院教授)

<推薦者のコメント>小野 翼さん(全科履修生)

ソクラテスは、「無知の知」と言っていない。私はこの衝撃を、恐らく生涯忘れないことでしょう。 私は心理と教育コースの人間ですが、放送大学は科目群が多様で、履修制度も柔軟であるおかげで、他分野の科目にも学びを広めることができ、幸せなことであると思います。 様々な分野をすくい読みするように手を出していく中に、この「西洋哲学の根源」がありました。

哲学ってなんなのか。正直に白状すれば、私は偉そうに本の上で仰々しい言葉遣いをしているものたちだと思っていました。 しかしそんな私でも、ソクラテスにはどこか親みを感じていました。高校卒業時、勉強にはついていけず、しかし学問に触れることはどうしてもしてみたい。そんな、無知な自分にとって、無知ということに言及がある人なので、興味がありました。無知の知というような、知らないことを知っていると言える自信がどこからくるのか、それを垣間見れたらいいなという期待を持ちつつ、第11章の放送教材にたどり着きました。

まさか、そもそも言っていなかったとは思いもしませんでした。 そこで語られたことはもはや、私にとって第3のあり方でした。 知らないくせに知っていると知ったかぶるでもなく、知らないことを開き直って知ったことにするでもなく、 知らないことを、ちょうどその通り知らないと認める。大仰な証明をするまでもない、素朴な思いの話であるので、 拍子抜けなほど腑に落ちたものでした。

しかもそんな身近な話をされたら、もう偉そうで迂遠な、仰々しい言葉とも言っていられない。 2400年前の人物が、時を超え、私個人の生き方を問いかけてくるようでありました。 直感的に、これは今までの「哲学」ではない、本書15章の言葉を借りて、「生きる技法」であると感じたものです。

それからはというものの、語られた当人の言葉を原典を読みたくなり、原典を読み進める上で背景事情が 気になっては本書を参照し、ひいては他の関連書籍まで手を出すようになり・・・ 気づいたら、哲学とはなんなのか、本当に哲学を知っていて、哲学とあなたは言ったのかと疑問に思っていた私が、 周りから哲学好きと扱われるようになってしまいました。

古代ギリシャの人物は似たような発音の人が多くて紛らわしいので、単位目的でこの科目を履修するのは、大変だと思います。 (私自身、お恥ずかしながら、講義を一周しただけでは、不知の自覚以外、何も耳に残らなかったものです。) ですが、単位どうこうのために、この古く、そして新鮮な知的刺激に出会えないというのは、もったいないことでしょう。 本科目は、OCWに選ばれており、ネット環境だけで、誰でも無料で、全15回を聴けます。 多様な古代ギリシャ哲学の論点を、10の筋にまとめて、概観していく構成になっていることですし、 まずは興味がある論点から、気構えずに聴くことをお勧めします。 私も、未だわからない点、むしろ疑問や疑念が深まる点が多々あり、終わりないものです。 だからこそ、読み手の善し悪しで、縛られずに読んでいいと思うのです。

もし、自らの思想信条が、誰かを善く導くことになるなら、対話相手が増えることになるのなら、私は嬉しいことに思います。 もしかしたら、ソクラテスや、納富先生にとってもそうなのでしょうか。 哲学を語るということが、どうしても自分のあり方と切り離すことができず、こんな長文になってしまいました。 ご精読、ありがとうございました。

もし文章が長過ぎて不都合出ましたら、こちらを採用していただけると幸いです。  西洋哲学の根源を、お勧めします。  私は元々、哲学なんて小難しいことばかりだと思っていましたが、善く生きる知恵のような、  自分の生き方に生々しく関わってくる話がいくつもあり、気づいたら自分が哲学好きと呼ばれるようになっていました。

難しい言い回しはわからないままでもいいので、自分の興味関心と対話してくれる人を探しにいくように読み進めていくと、  広大な古代ギリシャ哲学史で迷わずにいれると思います。  10の筋で多様な論点が整理されており、お勧めです。  私を思索の世界に誘ってくれた全ての先駆者に、代表して、  特に関心があるソクラテスと、著者の納富先生に感謝申し上げます。


<納富先生からのコメント>

貴重なコメントをありがとうございます。この科目は、西洋哲学の根源にある古代ギリシア哲学について関心と基礎知識を持ってもらうためのもので、全てを理解する必要はありませんので、ご自身の興味に合うテーマについて、より考えを深めてください。何よりも、この本を読んで関心を持った哲学者や哲学の問題について、ぜひ原典の著作(翻訳)を読んでみてください。最初は難しいと感じるかもしれませんが、慣れれば解説書の何倍もの魅力を直接感じることができるはずです。

哲学は私たちが生きる上で大切なことを考えさせてくれる学問です。これからもぜひ哲学への関心を広げてください。



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公開日 2025-07-22  最終更新日 2025-07-22

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