AAOU(アジア公開大学連合)第35回年次大会で「最優秀プラクティス賞 」金賞を受賞した、情報コースの中谷多哉子教授にお話を伺いました。
ー中谷先生の専門分野をご紹介ください。
ソフトウェア工学は、システムをつくる際、どのようなプロセスで、或いはどのような技術を適用するのかといったことを多岐に渡って研究する領域で、プロジェクトマネジメントや技術者教育などに関わるテーマもあります。このような研究領域のひとつに要求工学があります。
その中でも私の専門は、「要求抽出」という分野です。発注者の要求を聞き出してまとめる「要求仕様書」というものを作成する際に、個々のプロジェクトや状況に応じて、どのような手法を用いるのが適しているのか、どのような要求を集めればよいのかといったことを研究しています。
システムを開発する現場からすると、プロジェクトが進行し始めてからの要求変更はあり得ないことですが、実際にはさまざまな理由で変更が生じ、そのような場合にこの研究が役立つと考えています。
ーAAOUは、アジア太平洋・中東諸国の公開大学や遠隔高等教育機関が参加する連合で、本学は、1987年の設立当時から深く関わってきました。現在も、岩永学長がAAOUの理事を務めています。AAOU年次大会へのご参加は初めてだったそうですが、どのような印象をお持ちになりましたか?
まず、放送大学のような大学がアジアにこんなにたくさんあるのかということに驚きました。そして、その多くの大学が、遠隔教育に関して様々な工夫をされていることにも認識を新たにしました。
ー金賞を受賞された論文「延べ20万人のための単位認定試験:IBTの試行」に対する反応はいかがでしたか?
この論文は放送大学が、2022年度の第1学期に導入したIBTによる「Web 単位認定試験」について書いたものです。IBTはInternet Based Testingの略で、インターネットをベースにした試験の仕組みのことです。
会場では様々な意見交換ができました。たとえば、「20万人は多すぎるので、期間を区切って受験者数を分散させたほうが良い」というような意見がありましたし、私の方からも「カメラを使いたい」などといった具体的な相談をして、皆さんからアドバイスをいただいたり…マレーシアの先生からは「絶対できるから大丈夫」とエールをいただいたりしました。
今回AAOU年次大会に参加したことで、同じ目標を持つ方々と直に会って情報交換できたのは本当に良い刺激になりました。今後も交流を続けていつか共同研究などに発展させたいです。
ーサーバーや待合室など、IBTのシステム全般について先生はどのように分析されたのですか?
サーバーは、もう少し減らしても大丈夫だったかもしれません。AAOUでもそのようなご意見をいただきました。待合室についても受験者が集中した場合などには必要ですので今後も残す方向です。論文ではシステム全体を様々に検証しましたが、総評として今回のIBT導入は概ね成功であると分析しています。
成功の要因として特に強調したいのは、システムは予算さえあれば準備できますが運用には皆さんの協力が不可欠であり、今回はそのサポートが素晴らしかったということです。実はこれがこの論文で一番伝えたかったことなんです。
学習センターは本番に備えるための体験会を開催するなど学生への啓蒙をしてくれましたし、事務局では本番の試験で学生を集中させないよう誘導してくれました。もちろん学生も早めに受験するなどして協力してくれました。ですから、今回の金賞は私一人ではなく、放送大学全体への評価だと思っています。
ーAAOUの中でほかにIBTを実施している公開大学はほかにありましたか?
CBTを実施しているところはありました。つまり、会場に用意されたコンピューターで任意の時間に好きな科目の試験を受ける方式で、もちろん監視官がつきます。ですから、放送大学が実施したIBTへの関心が高く、特に「どのようにカンニング対策したか」という点に興味を持たれる方が多かったです。
ー今後の展望をお聞かせください。
カンニング対策にも関連しますが、今後はより一層IBTに適した問題作りに注力する必要があると思います。印刷教材の持ち込みを可にすることを前提とした試験問題の形式を検討し、よりよい試験問題、出題方法を見つけたいです。
また、今後はAAOUの各公開大学でもIBTの導入が進むと思われます。皆さんに我々のケースを参考にしていただけたら嬉しいですし、我々も皆さんの動向をキャッチしながら切磋琢磨して行けたらと願っています。
公開日 2022-12-16 最終更新日 2022-12-16