

担当講師:田口 亜紀
(共立女子大学教授)
<推薦者のコメント>冨江 渚さん(全科履修生)
田口亜紀先生の「フランス語I」です。
三年次編入したのですが、前の大学で第二外国語でフランス語を二年間履修していました。しかし、文法が難しく動詞の活用語尾を覚えることが中心の授業だったので、とてもフランス語を話せる段階までには届きませんでした。
それから二十年以上が経ち、大学でのフランス語の授業形態も様変わりしたな、と痛感しています。この授業は、文法とくに動詞の活用を暗記するのではなく、フランス人のネイティブスピーカーの先生の真似をして、まず発音することから始まるのです。そうすることによって、私の専門分野である英米文学の捉え方まで変わりました。英米文学の文献を読むときに忘れがちだった、立体感のある読解力と運動性のある言語のセンスを、この授業から体得しようと意気込んでいます。
<田口先生からのコメント>
「フランス語I」をおすすめしていただき、また、そのコメント内容の奥深さを拝読し、身に余る光栄に思っております。特に、この授業での実践を通して、ご専門である英米文学の捉え方まで変わったとお聞きし、講師としてこれ以上の喜びはありません。
「ネイティブスピーカーの真似をして、まず発音することから始まる授業」と紹介してくださったことも、大変うれしく拝見しました。まさにそれこそが、外国語上達の秘訣であり、本科目の狙いだったからです。
元来、言葉とは共同体の中で仲間に思いを伝えたり、考えを述べたりするために、口と耳を使って音声としてやりとりされていたものです。時空を超えて書かれた記録を残すために文字を使うようになったのは、ずっと後の時代のことです。つまり歴史をひもとくと、「音声が先で、文字は後」なのです。人間の成長過程でも同じで、赤ちゃんは大人の真似をして、文字を書くよりも前に話せるようになります。外国語の学習においても、このプロセスを辿るのが最も自然で効果的です。
音から入って文字を学び、言葉の法則性を見つけて文法(動詞の活用など)に結びつけていく――
これが理想的な形です。時間的な制約はあるものの、本授業で音声を前面に押し出したのは、こうした理由からです。
また、丸暗記に頼らない進め方にも理由があります。
実は、成人になってからの「丸暗記」には限界があり、人間の脳はそもそも丸暗記が得意ではありません。記憶のメカニズムにおいては、情報をインプットし、アウトプットして初めて「使える」状態になります。ある情報をアウトプットするとき、脳は記憶をたぐり寄せる(思い出す)作業をしていますが、覚えたときのインパクトが強いほど、たぐり寄せるのは容易になります。実体験と結びつかない丸暗記はインパクトが弱いため、一時的に覚えても定着せず、すぐに忘れてしまうのです。
一方で、ネイティブスピーカーの真似をして繰り返し発音すると、口や舌の筋肉を使うため、リズムや呼吸を含めて「歌を歌うように」体で覚えていきます。これは語学というより、楽器やスポーツのトレーニングに近く、意識せずとも自然と口をついて出てくるようになるのです。そうして体で身につけたフレーズは、長く記憶に残るものです。本科目には、こうしたフランス語という外国語の学びが、大学の授業という枠を超えて、人生の体験として残ればという願いも込められています。
英米文学の文献を読まれているとのことですが、文学の文章は意味だけでなく、リズムや響き(詩で言えば韻律や音色)によっても構成されています。原語だからこそ感じ取れる感覚があり、それが「立体感のある読解力」に結びつくという視点は、まさにその通りであり深く感銘を受けました。文学作品を朗読することで、より深い作品理解に到達できるということにも通じますね。
この授業がきっかけとなり、ご専門である英米文学の研究に新しい光を当てることができれば、講師としてこれほどうれしいことはありません。今後の研究の益々のご発展を、心よりお祈り申し上げます。
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公開日 2026-10-29 最終更新日 2026-10-29



