【学習センター機関誌から】「およげ!たいやきくん」= 21秒 「М八七」= 0秒
―「倍速社会ニッポン」はどこへ行くのか ―

放送大学山梨学習センター所長 村松 俊夫

 

 

都内で市場調査を手掛ける人が、音楽ファンの間で広がっている“あるうわさ”が本当かどうか気になっていました。それは「最近日本のポップスの導入部分(イントロ)がどんどん短くなっている」というものです。

そこで「およげ!たいやきくん(21秒)」「ラブ・ストーリーは突然に(39秒)」など、昭和・平成のヒットチャート上位20曲のイントロを2011年まで比べてみたところ、各時代平均17秒台でほとんど変化はない。ところがさらに10年後の2022年で調べてみると、半分以下の6.3秒と一気に短くなっていたそうです。

これは昨年、経済新聞の電子版『ヒット曲「サビまで待てない」』という記事の中で紹介されていた話です。その要因は、最近の「М八七」1) や「新時代」2) をはじめとする多くの“0秒イントロ”によるものと推測しています。

定額の音楽配信サービスが行き渡り、いくらでも聴き放題のため、利用者は好みの曲を探して次々と再生していく。そのため、歌い出しや聞かせどころまでに時間がかかる曲は、待ち切れずにスキップされる傾向にあるそうです。

また、別の全国紙の1面には、20代から60代の3人に1人が映画やドラマなどの動画を「倍速視聴」した経験があり、20代では半数近くに上るという記事もありました。最近の10代から20代の傾向として、配信ドラマを見る時は<1.25倍速>で見るというのが当たり前といいます。「ドラマの間とか情景描写がまどろっこしい。とにかくストーリーの先を知りたい。」というのが理由のようです。

スマホの普及とともに定額で見聞き放題の配信サービスが広まりました。到底消費しきれない膨大な量のコンテンツが送り出されています。そこで、現代社会に生きる人々は「日々の行動を高速化したい」。そう考える人が1999年に37%だったのに、2019年には57%に増えたという大手広告代理店の調査結果もあります。

特に若い世代は不安定な低成長期で育ち、“誰にも公平に与えられている時間”という資源を、少しでも有効に使いたいと思うのでしょう。

ところで、皆さんは「放送授業のインターネット配信」をどのくらいスピードで再生していますか?私は普段<通常>ですが、重要と思うところは<0.8倍速>で視聴しています。

よく「人の体は、食べたものによってできている」といわれます。消費するものは、ただ雲散霧消してしまうのではなく、必ず一部はその人の中に留まり影響を与えます。私たちは、できるだけ自らの“栄養になるもの”を厳選したうえで、“鵜呑みにせず”よく噛んで“消化”していきたいものです。

1)映画「シン・ウルトラマン」主題歌 歌:米津玄師 2022年
2)アニメ「ONE PIECE FILM RED」主題歌 歌:Ado 2022年


山梨学習センター機関誌「おいでなって」2023年4月号より

公開日 2023-06-23  最終更新日 2023-06-27

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