福島学習センター 客員教員 南雲 勇多
ユネスコの学習権宣言というものがあります。
戦後、普遍的な基本的人権をうたったものに世界人権宣言がありますが、そこにも明記されていなかった「学習権」を具体的に掲げた国際的な宣言です。
1985年の第4回ユネスコ(国際連合教育科学文化機関:UNESCO)の国際成人教育会議を機に出されました。
同宣言には、学習権とは「基本的権利の一つとしてとらえられなければならない」と記されています。学ぶこととは何かを獲得するための行為や余暇・余剰を埋めるための行いというだけでなく、そもそも人権そのものであるというのです。
前述のユネスコ国際成人教育会議は約12年に一度開催されてきましたが、同会議が今年の6月にモロッコのマラケシュで開催されました。新型コロナウイルス感染症の影響もあった中で、対面での参加とオンラインの参加を交えたハイブリッドでの開催となったそうです。
NGOスタッフとして日本の市民社会を代表し現地で参加した関係者がいうには、とてもすごい熱気だったそうです。
人権としての学習権とその保障について、その重要性や実現へ向けた課題が改めて確認されるとともに、国や地域をこえ、その実現への想いと意思の熱量が共有されていたとのことでした。
放送大学で学ぶお一人お一人は、年齢や場所を問わずその権利を行使している主体として、生活や人生といったそれぞれの「生」を活性化させているのだと思います。
また、同ユネスコ学習宣言では「学習権とは、読み書きの権利であり、問い続け、深く考える権利であり、想像し、創造する権利であり、自分自身の世界を読みとり、歴史をつづる権利であり、あらゆる教育の手だてを得る権利であり、個人的・集団的力量を発達させる権利である」と説明されています。
つまり、学ぶこととは単に読み書きの能力を培い、知識を養うことに留まらず、「問い」を持ったり想像・創造したりする主体性や、さらには「世界を読みとり、歴史をつづる」主体性を獲得(回復)することでもあり、一人ひとりがその権利を有しているのだと捉えることができます。
加えて先述の、学習権とは「基本的権利の一つとしてとらえられなければならない」という一文には続けて次のような言葉が示されています。
「学習活動はあらゆる教育活動の中心に位置づけられ、人々を、なりゆきまかせの客体から、自らの歴史をつくる主体に変えていくものである」と。
生涯学習とは、生涯にわたりそうした権利を行使し、自身の主体性を発揮しゆく試みであると思います。
そして、社会が変動する中にあっても、生涯を通し、その社会や人間のあり様に「問い」を立て、また想像・創造することを通して、「自らの歴史をつくる主体」の一人として関わっていく営みであると思います。
放送大学で、それぞれの様々な状況・文脈にいながら「いま・ここ」で学びに取り組み、自身の権利を行使している方々とともに、これからも学び合い、歩んでいければ幸いです。
福島学習センター機関誌「もみじ」第99号(2022年10月発行)
公開日 2023-01-20 最終更新日 2023-01-20