放送大学の2021年度「優秀授業賞」を受賞した「英語で「道」を語る(’21)」の担当講師である、人間と文化コース大橋理枝教授、そして斎藤兆史客員教授にお話を伺いました。
−ご専門である異文化コミュニケーションについて教えてください。
大橋:ひとことで言うと、文化的背景の異なる人々が、どのようなコミュニケーションをとるか、について研究する学問です。例えば、日本語を話す人々は、欧米人に比べ「直接的な物言い」をしないといわれていますが、果たしてそれは本当か、はたまたそうした差異は、コミュニケーション行動にどのような影響を及ぼすか、といった内容です。また、異文化というのは、外国と日本の対比だけを指すわけではなく、例えば関東と関西、教員と学生など、広く「前提とすることが違う人々」を対象としています。
−斎藤先生とは長年のお知り合いですね。お二人に共通する研究分野を教えてください。
大橋:1993年に、私が東京大学の総合文化研究科言語情報科学専攻の修士に1期生で入学したとき、入試の口頭審査をされたのが斎藤先生でした。
斎藤:よく覚えています。質問にさらりとお答えになり、見事だと思いました。
大橋:研究分野については、斎藤先生からの影響も多分にあります。その中でも、強く意識してきたことは、日本側からも自分達のことをもっと積極的に発信しなければいけないという点です。実は、私が放送大学で最初に使った教材は岡倉天心の『茶の本』でして、そこからずっと「日本文化を英語で発信する」というテーマを教材の中に盛り込んできました。今回の「英語で「道」を語る」は、現時点での集大成ともいえる内容で、独創的な日本文化である「道」というものを英語でどのように語るかをコンセプトにした授業です。
−「道」に焦点を当てた理由、きっかけは何ですか?
斎藤:日本の英語教育は発信型を目指しているようですが、自分達で書いた英語で、日本文化を外国に伝える教材は少ないと思います。大概は、外国で出版された、外国人が書いた日本文化論などが多いのが現状です。しかし明治時代には、岡倉天心、新渡戸稲造、鈴木大拙などが発信していました。その三人が論じたのが「武士道」「茶道」「仏道」であり、「道」が共通点なのです。これこそが、日本の文化に通底するものであり、日本人が本来昔から発信してきたこと、それをぜひ自分達で発信しましょう、ということで「道」を中心に据えた教材をつくったというわけです。
−「道」を表現する上で難しかったのは、どのような点ですか。
大橋:具体的な「道」を紹介するのは茶道、書道、武道、仏道の4回で、後半は「道」にかかわる概念を英語でどう説明するかという内容になります。例えば、「実践あるのみ」という概念をどう説明するか、あるいは武道の「型」をどう説明するか、そのための手がかりとして、華道や芸道(日本舞踊)など、その「道」の達人、専門家の方にインタビューもしています。私自身も体験したのですが、実践してみて始めて「実践あるのみ」の真髄の一端を得たように思います。修行を通じて己を知るということが「道」であるということを実感しました。「実践あるのみ」となると、どうしても自分自身の感覚や経験によるところが大きく、それを言葉にしてもどうしても伝えきれない部分も…永遠のジレンマですね。
−「英語で道を語る」を学ぶ方に向けたメッセージをお願いします。
大橋:第二回でご登場いただいた生形貴重先生が「百人いれば百人の利休がいる」と仰っていたように、「道」に何を思い、何を感じるかは千差万別。この授業は「これが正解です」ということではないのです。もちろん、英語で伝えることを主旨にしていますので、英語としての正誤はありますが、どのように伝えるかは、個人の感じ方で構いません。自由なのです。
斎藤:人それぞれ違うかもしれませんが、外国人の表現に頼らず、自分達で伝えていきましょう、ということです。それができる英語力をしっかりとつけていただきたい。
大橋:発信を目的にするというよりも、まずは伝えようとする意気込みを大事にしていただきたいですね。
公開日 2022-04-18 最終更新日 2022-09-01