【学習センター機関誌から】ことば


尾﨑 浩一

放送大学島根学習センター客員教授

この文章を書いている5月18日は「ことばの日」だそうだ。「ことば」を大切に使い、「ことば」によって人と人とが通じ合えることに感謝し、「ことば」で暮らしをより豊かにすることを目的としているとのこと。確かに「ことば」は人を励ましたり力づけたりする反面、人を傷つけることもままある。怒りをコントロールする方法の一つに、語彙力を高めることがある。ことばで自分をうまく表現できれば、強い思いを怒りにつなげることなく人に伝えることができるからだ。一方で、画一的なことばの選択は思考の単純化を導き、多様性や複雑さの中で生じた様々な問題に拙速かつ排他的に方をつけようとするポピュリズムの台頭を許すことになる。「豊かさ」は「複雑さ」の中にあり、そこで生じた問題は、やはり時間をかけた試行錯誤の中で解決策を探っていく必要があると思う。

しばらく前から「ダイバーシティー」とか「インクルーシブ」といったことばをよく耳にするようになった。前者は「多様性」、後者は「包含的、包摂的」といった意味だが、特に後者はインクルーシブ教育とかインクルーシブ社会といったように、そのままカタカナで使われることが多い。障がいの有無や人種、性などの違いを超えて、一緒に学び暮らす教育、社会のことだが、その概念を日本語に訳すのが難しいのだろうか?しかし、民話採訪者の小野和子さんによると、自分とは違うように見える人たちを、自分を変えながら受け入れてきた社会が民話の中に見えてくるという。かつてはそれが当たり前のことだったのかもしれない。翻って現在の文科省のインクルーシブ教育に関する報告を見ると、「特別支援教育」に関する記述にほぼ終始している。果たしてこれがインクルーシブと言えるのだろうか?

閑話休題、最後に白築純さんの著書から、彼女が一番好きな義祖母さんの短歌。 「一言が人の心を温める 温め合える言葉を探す」


島根学習センター機関誌「だんだん」第144号(2024年7月発行)より掲載

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