【学習センター機関誌から】「印刷教材」は深い学びへの“ナビゲーター”

村松 俊夫

放送大学山梨学習センター所長

スマートフォンやパソコンあるいはタブレットの普及で、急速にKindleなどの電子書籍媒体を読む機会がふえました。漫画などの画像を主としたメディアでは、電子版がむしろ主流でしょう。しかし、比較的若い10代半ばから20代半ばの人たちの3人に2人は紙の本を好むという報告もあります。それは一体なぜでしょうか?

アメリカでさまざまな実験や調査註)が行われた結果、紙の本には物理的な重さや触覚的な体験があるため、パソコンの画面上や電子書籍リーダーでの読書より、長文を直感的に読み進めやすくなっていることがわかりました。具体的には、紙の本の長所として、「テキストを風景としてナビゲートできる」ことが挙げられています。開いたページに文章がどのように配置されているかという「テキストの風景」が、読む人にテキスト全体の構成を見失わせることなく、そのページに集中させることができるからです。

例えば、電子書籍では、表示するデバイス(スマホ、パソコン、タブレット)やデータ形式(Word.PDF等)の違いにより、同じテキストが異なった書体や文字の大きさで再配置されてしまうことがあります。しかし、紙の媒体には確かな“地形“とも呼ぶべきものがあり、ページをめくるごとに自らの足跡を残していくような感覚を覚えるとのことです。つまり、その感覚をたよりに、今自分がどこまで読み進んでいるかという行程をはっきり感じ取れると同時に、ページを繰って疑問に思った個所へ直ちに戻ることもできるのです。

また、電子書籍で物語などを読んでいる時、スクロールバーを見て「まだ半分くらいか…」と感じたり、最後の一文を読んだ後「これで終わりなのかな?」と思ったりした経験のある人も多いのではないでしょうか?これは、紙の本にはすぐに分かるサイズや重さ、ページのボリュームが感じ取れる一方、デジタルのテキストには大まかな分量を確認できるスクロールバーしかなく、長編でも短編でも同じ重さの電子書籍リーダーに対して“触覚的な不協和感覚”が生み出されるからだといわれています。

もうひとつ、実験結果として重要な点に「知る」と「覚える」の違いが挙げられています。教材をモニターで読んでいた学生は短期的な「覚える」記憶に頼る傾向にあった一方、紙媒体で読んだ学生の方はどのような文脈でその情報を目にしたかという長期的な「知る」記憶となっていました。情報として目にするだけならディスプレイでもよいが、知識として獲得したいなら紙の本の方が向いていると結論付けられています。

放送大学の放送授業にも紙媒体による「印刷教材(テキスト)」があります。放送授業の視聴による学びをさらに広く深くサポートしてくれるものです。講師の先生が直接語りかけてくる放送授業の視聴と同様、じっくりと読み込んでみてください。皆さんの知識の海への航海を、的確にナビゲートしてくれるものと思います。

註)参考URL https://gigazine.net/news/20190207-paper-versus-screens/ (2024.7.9閲覧)

山梨学習センター機関誌「おいでなって」第92号(2024年4月発行)より掲載

公開日 2024-07-26  最終更新日 2024-07-26

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