心理と教育コースを選択しての入学のきっかけは、これまでのコンサルタントとしての臨床実践を相対的に検討してみたい気持ちからだった。
現代の対人支援現場における技法は様々な発祥を持つものが融合され、コーチング、カウンセリング、コンサルテーション、サイコセラピーetc .……と異なる名称と志向性を持ちつつも、手法や知識領域は相当に重なり合うというわかりにくい構図にある。
そのため自らの臨床実践を自らどう理解し、語っていくかというテーマを考える手すりが欲しくてこのコースに入ったのだった。
入学した後には、弁護士資格を取得したこともあって、司法臨床という新しい分野に関わるようになった。
以前とは異なる支援相手、すなわち、社会構造の中で排除、周縁化されやすい立場にある人々に向き合うこと、福祉的実践を行う局面が増えていった。そんな時期に在学していたのは僥倖で、コース区分を越えての受講が自由であることもあって、他コースである福祉分野の内容に触れていくことができたことは、新たな実践領域における羅針盤を得るような感覚をもたらしてくれるような経験へとつながっていった。
卒業の頃には、受講の中で触れた世界観や概念、事例の理解は、自分自身の中で成熟し統合されていったように思う。
特に、自分の生きる現代日本が世界でも類を見ない速度で高齢化し、人類史上前例のない大規模包括的福祉システムを構築・実践しようとしている(同時に社会保障財政上の問題に直面してもいる)「実験的フロンティア国家」なのだと自分なりの視座を得たことは、福祉政策領域に関わることの増えてきた自分にとっては、臨床上の大事な立ち位置を与えてくれるものとなった。
こういった経験は私なりの「われらどこから来て どこにゐるのか 生きるとはまなぶこと(放送大学校歌より)」であったともいえる。
もちろん「まなぶのはたのしみ」でもあった。学びを支えてくれたすべての関係者に感謝したい。
プロフィール
栃木県宇都宮市で活動する弁護士/公認会計士(法律事務所XAI主催)。
栃木県の包括外部監査に関与し、社会保障/福祉政策領域を担当。
日本弁護士連合会では高齢者・障害者権利支援センターの幹事として、精神病院における強制入院問題に取り組んでいる。
ナラティブ・アプローチに重きを置いた対人支援の臨床家でもある。
※2024年1月22日 本誌掲載の記事です。
公開日 2024-02-26 最終更新日 2024-02-26