関山 徹
放送大学鹿児島学習センター客員教授


聴くことは特に意識することなく毎日の生活のなかで自然に行っている行為ですが、私の専門分野である臨床心理学ではとても大切にされている営みです。今回は、松木邦裕氏(『耳の傾け方』岩崎学術出版社、2015年)の《支持的な聴き方》という考え方を使って、そのコツを紹介をしてみたいと思います。
松木氏は精神分析学派の高名な精神科医なのですが、その《支持的な聴き方》をさまざまな流派に共通する基礎的な聴き方として位置づけて、「こころを聴き取るには、私たちが私たち自身のこころを使って聴くことが求められるのです」と述べています。その上で、松木氏は多層的な聴き方が必要であると説いて4つのステップを示しています。

多層的な聴き方のイメージ図
最も土台となるステップ①は「基本的な聴き方」です。ここでは「批判を入れず、ひたすら耳を傾け」ていきます。いわば語り手の話を全身でまるごと受けとめるイメージです。これが世間で普通に受けとめられている傾聴の姿だろうと思いますが、プロフェッショナルな聴き方としては入口にすぎません。
次いでステップ②では、「離れて聴く」ことに重点が置かれ、客観的な聴き方も併用していきます。ちょっと離れたところから心理的事実を観察するように聴くイメージです。
さらにステップ③では、聴き手自身の思いと重ねて聴くこともしていきます。松木氏は「そのクライエント/患者が表している思いや感情に耳を傾けながら、それらの思いや感情と同じか、できるだけそれらに近似する自分の中の思いや感情に触れること」と述べています。つまり、話をよく聴くためには、相手だけでなく自分自身の心にも耳をすませるということです。
ステップ④では、「同じ感覚にあるずれを細部に感じ取る」聴き方を同時に進めていきます。すなわち、分かろうとしても分からない部分に気づき、どこがどんなふうに分からないかを丁寧に吟味することによって、語り手固有の体験のありようを理解していくという聴き方です。
そして、図に示したように、バランスのとれた聴き方を心掛けていきます。初心者のうちは、自転車に乗りはじめた頃のように1つひとつの動作がバラバラでぎこちないものになってしまい、聴くことがこんなに難しいことなのかと悪戦苦闘してしまうものなのですが、意識して練習を繰り返すことによって徐々にできるようになっていきます。
もちろん、心理職として来談者の支援をするためには上述の聴き方の側面だけではなく、パーソナリティや発達心理、精神病理、関係諸制度等についての確かな理解と心身に余裕があることが必要です。とはいえ、《支持的な聴き方》は、普段の人間関係を良好にしたり共感を深めるために役に立ちますので、是非とも参考にされてください。
鹿児島学習センター機関誌「かいこうず」第108号(2025年7月発行)より掲載










