【学習センター機関誌から】学び手と教え手が出会うとき

廣澤 愛子

福井学習センター客員教員
福井大学 教育・人文社会系部門 教授

放送大学の面接授業を担当させていただいていた頃,学生の皆さんの活気と意欲,学びに向かう姿勢に心が洗われるような気持ちになったことを今でもよく覚えています。質問や意見,感想などに情熱のようなものが感じられ,どんな言葉でどんな風に応えてゆくのがよいのか,私自身,試行錯誤しつつ,また,あれこれと文献を読み直しながら,回答していたように思います。つまり,学び手である皆さんによって,自然と,教え手である私自身が,いろいろなことを学ぶ機会をいただいていたと感じます。一方,普段,私は別の大学で授業をしており,意欲的に学ぶ学生もいますが,卒業に必要な単位だからという理由で,必要に迫られて受講する学生もいます。そんなときは,この授業の中で学生が少しでもハッとさせられ,考えてみたいと思える内容・形式にしようと,まずは学生が何に興味を持ち,普段どのようなことを考えているのかを聴き,そこに合わせようと創意工夫しています。

“ Teaching is mostly listening, Learning is mostly telling.(教えることは聴くことであり,学ぶことは話すことである) ”とは,著名なアメリカの学校改革者のお一人,デボラ・マイヤー氏によるものと記憶しています。最近つくづく,私なりにこの言葉の意味が腑に落ちるようになってきました。マイヤー氏の意図とは合致していない部分もあるかもしれませんが,確かに,放送大学でもわたしが普段教えている大学でも,学生の皆さんが多くを話し(質問したり,ディスカッションしたり,感想を述べたり,発表をしたりし),わたしがそれを聴きながら,それにそって授業を構成するとき,学生の皆さんの学びが深まってゆくのを感じます。同時に,教え手である私も,そのような授業をコーディネートするために何を準備するとよいのか,どのような応答をするとよいのか,どのような資料を提示すると良いのかを真剣に考え,私自身の学びも深まっていきます。つまり,学び手と教え手がしっかりと接点を持つことができたとき,双方の学びが深まる場が実現することを実感しています。繰り返しになりますが,このような場を実現するには,学び手の主体性(意欲・関心・情熱・好奇心などに基づいた発話や対話)と教え手の主体的受容性(学び手の意欲や関心,情熱,好奇心などを積極的に聴きとろうとする姿勢)が必要不可欠です。学生の皆さんの学びが,これからも確かに深まってゆくことを心より応援しています。


福井学習センター機関誌「楽学喜」第99号(2024年7月発行)より掲載

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